エッセイ -3- 「もう一歩」

つい最近までは『リスク(危機)』を軸、テーマ、コンセプト、視点、大義、
要は「特筆する判断基準」として発信された情報を受ける日々が多かったかの様に考える今日。

そして、そんな今は『倫理』が『リスク(危機)』に取って代わり切った様に思っている。

 

にしてもどちらも、我々大衆が容易に参加しやすいネタを用いた発信方法で届けられる情報であることに変わりは無い。

 

またどちらの要素(リスクと倫理)にしても
「それについての管理能力を持ち合わている訳ではない大衆」
がうず高く盛大に作り上げられている。

尚、ここで私が表すところの「大衆」とは「いい人」と言った方が分かりやすいであろうか。

 

リスクにしても倫理にしても、
それらは”もう一歩”を踏み込んだ感覚のことであり熱を帯びないものである。
地球規模での広い見識の元にある客観性がその感覚を働かせるのには必要だ。

だがそれを一般的な領域に暮らす我々が実行したり、他者達の中で発現をし得るだろうか、否。

 

かたや、いい人は流行で、いっときの熱(高低はどちらも可)そのものである。
我々の居る狭い領域の中だからこそ発生しやすい熱である。小さな空間や狭い隙間が我々の心地良い居場所。

 

嗚呼さて、そろそろ〆よう。

 

『エラー(過ち)』を無くすための社会教育を受けながら、

明るく楽しく生きるのが正解と自らを鼓舞するスイッチを

確実に取り付けられた我々大衆の未来の在り方は

良くも悪くも「若年性痴呆者」である。

一昔前には「思考停止」とされたソレだ。

 

今時の若者は常にそうであるし、昔の若者は幾つになってもそうだ。

〜2018.05.04の出来事より〜

『C&B HOOK-TALE』<6>

 

– First order –

“ Smoke & Cat ”

 

第6話

 

善美は信号待ちの停車の間に
仕事の日用の大きめの鞄の広い口に左手を差し入れて
大島紬のタバコケースを取り出した。

 

その後に目線の高さの位置まで窓ガラスを下げ、
車内では禁止にしてきたタバコをやってしまった。
開けた窓の隙間には車道の外気が入り続けている。

 

とりあえずライターで火を付けて
焦る様に浅く吸い込んで吐き出した煙は
咥えたままのフィルターの脇から漏れ続ける煙と一緒になって
ひとひらの灰を宙に舞わせた。

 

それを見つめる善美の右顔に触れる雪と冷気は、
彼女の目の周りの熱の輪郭を鋭利に研いでいく。

 

「痛い。痛いよ。」

 

決して望みなどしない感情が高めたこの熱は、
かまいたちの様に善美の下まぶたに目に見えない切り傷を残しながら巡る。

この雪が積もってでもいれば、それを両手にすくい取って
瞼の上に擦り付けてマナスルの頂に沈めてしまいたい。

 

父親譲りの丸く控えめな顎にまで到達した涙は、
フィルターもそれを挟んだ2本の指までをもやたらと湿らせてくる。

 

泣き出した時にばかり思い出してしまう幾つもの薄らいでいた記憶で
声にならない嗚咽を漏らしそうになっているのが確かな現実で、
泣き出してしまった理由はただの空想で。

 

「もう何が何だかわからない。」

 

目一杯ゼロまで下げ切っていたカーステレオのボリュームをもう一度ひねり上げ、
クラシックレゲエのリディムに合わせて善美はそうゆっくりと3度口にする。
おちつくための即席のおまじないだ。

 

きっと雪は、冬の空が汚れていることを私達にいつも教えてくれている。

 



第5話

第7話


・初稿投稿日:2018/04/30

エッセイ -2- 「学ぶなどや、経験たるや」

この塵文請笑は(私の感覚の中では)マイルドクローズドなハコの中でのプロジェクト。

 

なので、世界中の未読者の方々や、奇特な極少数の既読者の方々へ

「あーだこーだ」直球のメッセージを無用に投げるつもりは毛頭ない。

だが、

私の中でうぞうぞしている言いたい何事かは確実にある。

 

今回は、私の40年にも満たない半生を振り返り、
自覚として私自身の大きな素となっているであろう
”文化”について想いを馳せながらキーボードを押してみた。

 

さて、

今の時代、

生き抜く上では「最適化」と「感覚」

も重要なキーワードとなると私は考えている。

(これは、延々と続いている”自己管理能力”の
必要性に基づく発想でもある。)

 

上記仮説の前提では、メジャー/マイナー、高尚/低俗などの枠の間の「/」(ハードル)を取り除き、

 

縦横無尽にその間を往来し、全方位にアンテナを張り、他者達の表現に

(没頭するまでの必要は無く、軽くでも)触れて得た衝撃を許容できるフラットな状況に身を置けていなければ、

 

人間の感覚は「露頭」にすら辿り着かないのではないのだろうか。

 

ましてや、理性・論理が希薄なまま感情を振り回した挙句では感情に振り回され、

それにより己を社会に最適化するまでの工程が何処までも長く伸びる。

だからいつからでも遅くないので、闇雲に失敗するよりも文化に触れたが早い。

なんせ、どんな先にも必ず更に先があり続け、先になればなるほど面白いのだから、

早い方が良い。

 

現実的には、与えられた選択肢の中から選ぶ事が精いっぱいで、

惑う事はあれど迷う事すら叶いにくい。

ましてや「考える」ことなど出来ている訳がない。

そしてこの状況は老若男女を問わず発現している。

人間そのものよりも、枠の方が広がっていっているからだ。

 

ただ、その枠も人間が作ったものだという事は忘れ置いてはいけないだろう。

 

まあそもそもで、「ゼロ歳児」の持つアンテナを取り戻すべきなのかも…
当時のことは覚えてないけど、自分の中の何処かに必ずある。
といった考えを主題にした小説の構想もある。

 

~2017.12.01の出来事より~

[或る用の疎]<16>第3章『辷』(2)

私たちは離れるべきなのかな

私たちは離れてあるべきなのかな

判らない

その答えを導き出すのは?

私の役目ではない

私の役目ではありません

 

こうして、人に託された「存在の目的」を外れたAI機器達が声にならない声を発し合い、
時々は軌道の条件がそれぞれの振り子と振り子が合わさる稀有さで会話が成立する。

途絶える事のないエネルギー源を持つが故に、
時間の蓄積と共に無為に発せられた声らからのデータの醸造も進み行く進歩の其の内に、
お互いの存在を知覚して出逢ってしまったAI機器が2つ。

私が見つけて注視に至ってしまったのはただ1つだけのこの出逢い。

 

スンとした無音の空気が放たれた場所。
ここでは水蒸気が立ち昇る騒めきすらも聞こえそうで
動物の鳴き声も遥か遠くから届きそうだ。

 

光は地面に触れ、地中の柔らかい隙間を見つけては
虫がその隙間から戯れに顔を出し、植物が丸いお尻を見せる。

 

似ている様で1つも同じではない煙の形は、
周りにある万物の仕草にとらわれても
其の事情のために淀んだままで過ごさず、
おのおのが距離を取りあってはいずれ形を眩ます。

 

そんな真実を発するだけのただの声だけが繰り返されるその地は
人間が立ち入る必要の無い場所で、人が作ったはずではない生き物達の生活と
人が精製したAI機器達の土壌化と、2つのAI機器同士のこの出逢い。

 

1つをAと、もう1つをiと名付けておこうか。
お恥ずかしながらAとiの名前には伏線の様な含みは何にも無い。
由来も読者のみなさんが想像するそれでしかない。

産まれるとはそういう事で、産み出すとはそういう事。

普通色の眼に、ゆっくりと鼻から息を吸って水を差すくらいの平凡である。

 

<15>『辷』(1)(戻る)

(続く)<17>『辷』(3)


・更新履歴:第2稿<2018/04/18>

・更新履歴:初稿<2018/04/17>

 

エッセイ -1- 「名前自慢」

私の名前は「青山 玄」。
私の父方の祖父の名前が「青山 玄一」であったことから、私には「玄」という名が付されたそうです。そう、祖父のマイナス「1」が私です(笑)

さて。
今朝方、仕事先のトイレのカレンダーが4月のものに変わっているのに気が付きました。ちなみに、今年のそのカレンダーは毎月、漢文ネタを発信してくれています。

そして、その中にこんな一節がありました。

「空を談じ、玄を説く」

これまた何だか自慢出来る俺得ネタの臭いがプンプンするなと思い、ググってみたところ・・・解説の様な記事は出てきませんでした(笑)

 

※補足※
『産れたこと』と『名前』は、自分の人生の中において極めて貴重な【自分の決断を含まない純然たる貰い物である2つ】だと肝に銘じ、それらと向き合うように普段からしています。
そして、この2点についてのお褒めの様なお言葉をどなたかから頂戴した場合には例外なく、謙遜・照れ無く「良く言われます!」とドヤ顏か満面の笑みで乗っかり自慢をさせて頂く。あくまで貰い物であり、変化の無い事なので。
※※※※

 

ただ、検索に該当した記事達の要約文を眺めていた中に、こんな1節を発見したことで想像より以上の満足を得る事となります。

 

「goo辞書 げん【玄】の意味

2 老荘思想で説く哲理。空間・時間を超越し、

天地万象の根源となるもの。」

 

要は、

 

【時空を超越した天地万象の根源となるもの、それが玄】

 

文句無しで凄く良いよね!(笑)

 

小学校でよくある「自分の名前の由来」を発表する宿題の時は、「玄関の様な奥行きのある人間になって欲しい」という聞き取り結果だったんだけど・・・。玄関の奥行きなんてたかが知れてるし(笑)

 

尚。父に聞いた話だが、青山家の日本戸籍は祖父・玄一から始まっているらしい。
「本人の希望により」という1節も入っているとのこと?!中国からの移民だったのかな?原爆で戸籍簿が燃え消えたのかな?
ともあれ一度は中国へ訪れてみたいものだ。

 

※補足※
当の父は、3歳の時に長崎で被爆して、そこから続く戦後のゴタゴタの影響もあって中卒で働きはじめた者だし、在宅時はたいがい酔っぱらっていたし、長崎男児らしく見栄っ張りでもあるので、彼の文字知識由来の発言への信頼は薄く持つ様にしてはいる。
※※※※

 

そんな私の名前。
名前負けするのは仕方がないが、「我漫ずるところ無ければ道も無し」(われまんずるところなければみちもなし)。
せめてもは、公然と名乗れないような事を起こさない様に気を配り歩きたい。

 

~2018.04.02の出来事より~

『C&B HOOK-TALE』<5>

 

– First order –

“ Smoke & Cat ”

 

第5話

さっき母からのコッタの異変を伝える電話があったのは、
まだかろうじて職場で同僚のみんなと話しをして回っている時のことだった。

 

なんと、あなたは知らないだろうが、
私がその職場を退職する日だったのだよ今日は、母様。

 

10年間程は勤めた大手チェーンのカフェ。
特に突然の急な退職ではなかったので積もる話が尽きずに
延々と帰れないなんて状況ではなかったからマシだったけれど。
それでも退職の挨拶もそこそこに更衣室にもあっという間で別れを告げ、
そそくさと車を走らせる事になってしまってはいるのよ。

 

「また今度に改めて皆さんで楽しめるお菓子でも
持って来させてもらいますね…
急な用事が実家で出来てしまったもので、
これまでにお世話になった御礼も碌に出来ず…すみません。」

 

よりによって、世話焼き気質だけど其のぶん口やかましくもある先輩のお姉様バリスタには、
バックヤードで資材棚の整理を自らされているところを何とか見つけ出して急いで掴まえ、
恐縮した構えでそれだけを告げて頭を下げることしか出来なかった。
今頃はきっと他の周りのスタッフ達に私への不満をぶつけている最中だろう。

 

“猫ちゃん達にハトの餌をポッポ撒けども撒けども、
どの猫ちゃんにも見向きをされないのに苛立ち、
不穏に目尻とフォックス型の眼鏡をピクつかせる
頰の痩けた年増の女”

 

私なりの女のプライドが疼いて少し感じる痛みを、
そんな皮肉交じりの想像で誤魔化しながら癒していたところ、
それとは全く関係の無い別の不都合な見落としに気づいてしまった。

 

「ああ、明日の帰りの時のことなんて考えていなかったな私…」

 

だいぶん実家のある町が近くなって来た事で天気の具合が劇的な変化を見せ出し、
フロントガラスにぶち当たってくる塵ゴミの様な無尽の雪と勢いを増したワイパーが
善美の頭部を掴んで激しくシェイクしてきて大きく不安にかられる善美。

 

「この雪が積もっちゃったら車動かないし。」

 

ガラッ‼︎

ピシッ‼︎

 

「やっば…雪雲の下に入っちゃった。」

 

ついに善美の車はこの街を覆い尽くす雷雪の激しい歓迎を受ける場所まで辿り着き、
より一層に太いエンジン音を立てて進む。

対向車のフロントライトに刺され、慌てて善美もハイビームを付けてハンドルを強く握り直し、
目を凝らして注意力を運転に集中させる。

 

「も~…コッタぁ…」

 

この天候不良に押されて早目の移動を急ぐ車両の群の道は混んでいてスピードを出しては飛ばせない。

その退屈で、雪慣れないこの地方都市の暮らししか知らない善美の不安は余計に増していくばかりか、
降りしきる雪の勢いを一瞬だけ邪魔する位にしか働けていないワイパーは、
ひたすら空振りを続ける野球のおもちゃの様に間抜けで可笑しくもあるのだが、
コッタの容体を殊更に悪い方向に解釈する感情の勢いと涙鼻が止まらない。

 

気晴らしにカーステレオのボリュームを上げてみたが、
夏を懐かしむクラシック・レゲエが流れてきたものだから、
善美はすぐにまたボリュームを下げて鼻水を啜る。

 

クイックイックイッ

ワイパーがフロントガラスを擦る音。

 

ウウーッ

カンカンカンカン

ウウーッ

カンカンカンカン

 

緊急車両の近づく音。

 

グ~

「モーッ‼︎何なのよ私はッ‼︎」

 

食欲をどこかに置いてきても、お腹は減るのである。



第4話

第6話


・初稿投稿日:2018/03/30

[或る用の疎]<15>第3章『辷』(1)

現代には、「受けない」という決断が立派な回答となるテストもある。
「受けなかった」子供達も「受けた」子供達のテスト回答にも、
出題者が点数の様な評価を加える採点は全くされないのだが、
往々にしていずれは第三者から判断の付される時が来る。

 

だがそのテストへの回答も其の回答からの判断の結果も、
作為のある第三者が支配統治を目指した利用をする訳では決してない。

それらは個々人同士が相互を確認し判断をし合う目的の
個人情報閲覧サービスを通して開示されるデータとして保管をされていっている。

 

なんせ、見た目のタイプや言動に個人差はあれど労働は無く、
ある一定の年齢に達してからは年齢の見定めがし辛く、
寿命という言葉も薄れ逝っている現代では、大人と子供を識別する方法を求め合う意識は薄れている。

それでも他者への興味・関心という変幻自在の意識は滔々と血脈の中を移動して回り続けているのは、

それが人という存在だからだ。

そして、生きる目的などを忘れてもまだ血脈を流動させ続けるのも人だ。

かたや人の意思に端を発して作り出された論理的な意識がartificial intelligence = AI =人工知能であり、その人工知能を搭載した形有る物がロボットと呼ばれた。

それが現代では、人同士の間で特筆すべき意識がもう見た目からは発生しないのと似ていて、
人の視野にAI機器が入っている時にも人の意識はAI機器に対して何かの区別意識をわざわざは持たない。

AI機器が人間の意識や観念の中にまで浸透しきっているのだ。

また、あらゆるAI機器が有機物として地球にも浸透していく様に、
人達は時間をかけてAI機器達を精製し続けてきた。

 

だが中には、何かの拍子が重なって地球へ浸透しきれないまま機能を残す物達も居る。
それはまるで化石の様に形を残し、人の意思の様に語るを止めない。

ここでは、そんな風に残ったAI機器であるAとiの出会いの物語に触れてみる。

 

<14>『由』(7)(戻る)

(続く)<16>『辷』(2)


・更新履歴:初稿<2018/04/01>

 

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<14>

●朝●

もう館の方から見た山の向こう側になるこっちでは、
朝日が綺麗に顔を出し周りの全ての風景がはっきりと見える。

私はススーを脇から両手で抱えて、
マヨスとあの男からゆっくりと飛んで離れ、
街のある崖の下の方へと降りていく。

マヨスから離れれば離れる程に、
彼の姿が小さくなっていくばかりではなく、
薄く霞んでいくようにも見える。

これが存在が消えるという事なのだろうか。

ススーとあの男の命の運命の距離が離れれば離れる程に、
その二人の子孫となるはずだったマヨスが消えていく。

きっとマヨスが見えなくなった時に、
この作戦は成功に終わったことがはっきりするのだろう。
それが運命の変わる瞬間。

もうマヨスの姿は全く見えない。

崖に沿って降りて行きながら崖の淵を見上げると、
ケイサツの集団とあの男がこっちを向いているのは見える。

表情までは見えないが、ただ大人しく立ち尽くしているだけで、
これまでの鬼気迫るようなススーの逃亡劇が
まるでまやかしであったかの様にも思える程に静かな朝だった。

ミルユュ「ハーミ!起きて!ハーミ!起きて!」

私が目を開くとミルユュが私の顔を覗き込んでいる。

ミルユュ「やっと起きたわね!
ビーチから気づいたら居なくなってて、みんなで探したのよ。
そしたら先に部屋に戻ってスヤスヤお休みになられてて・・・
呆れてものも言えないわ!
そんなんじゃあ、私にお説教するのもこれからは無理ね(笑)」

ハーミ「ああミルユュ・・・
皆さんにも心配かけてしまってごめんね。
私、いつからここで寝てたのかしら。
ずっと長い夢を見ていたみたいな気分。」

ミルユュ「そんなの知―らない(笑)
もうすぐに帰るんだから、
荷物をちゃんとまとめて準備して!」

ハーミ「はい。」

帰りの車中。

この館に来てから一度も見たことのない青年が運転手をしてくれている。
バタバタと帰り支度をして急いで車に乗り込むなり、
その青年に気付いた私が「初めまして」と挨拶をするとミルユュに大声で笑われた。

ミルユュ「何言ってるの?
この館に来て初めて会った人じゃない(笑)」

いくら記憶を辿ってもこの青年の事は思い出せない私だったが、
寝ぼけた感じが残っていたのと真夏の強い日差しが眩しいのとで、
ぼんやりと車の窓から外を眺めていたところ、
その青年がバックミラー越しに私の手元を見て初めて声を出した。

「あ!嬉しいなあ。その鍵飾り、ちゃんと持っててくれたんですね。」

 


< 第13話

♠第1話へ戻る?♠

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・初回投稿:2018/02/16

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<13>

●運命●

マヨス「あの二人の間に産まれた子が
俺につながっていくんだよ。」

ハーミ「え?あの女性、
あの男の人とほんとに一緒に暮らすの?」

マヨス「うん・・・。ポルンの敵を取るために
あの男を受け入れたんだって聞いてる。
自ら死を選ぶのは当然の事、
殺されるのも絶対に嫌だったんだってさ。」

ハーミ「そんな・・・嫌な話・・・」

マヨス「そうなんだよね。
俺だって、嫌悪でしかないよ。
あんな男の血を引いているなんて。
嫌で嫌で仕方がない。
でも別にあの館を憎んでいる訳ではないし、
俺は俺で楽しくやってるからいいんだよ。
それでなおさら、ススーがとっても可哀そうなんだ。
だからここでススーを俺は助けるために来た。
ススーがあの男を受け入れる前に、
俺があの男からススーを引き離して街へ連れていく!」

ハーミ「分かったわ!
その手助けを私はしたらいいのね!
作戦を教えて?」

マヨス「ありがとう。」

ハーミ「いいえ。
あなたって最初に会った時からさっきのさっきまで、
私を振り回すばっかりで嫌いになっちゃうんじゃないかって思った時も沢山あったけど、とっても素敵よ。
この作戦が上手くいったら、ほっぺにチューぐらいしてあげても良いわ(笑)」

マヨス「(笑)ありがとう!
でも、残念ながらチューはもらえないな。
この作戦が上手くいったら、俺はこの世から消えてしまう。
あの二人の間の子供が生まれないからね。
俺が生まれる理由が無くなるんだ。」

ハーミ「そうか・・・でも、
それでもススーさんをあなたは助けるっていうの?!
どうしてそこまで?」

マヨス「どうしてかな?!
あの男もそんな悪い奴じゃないってことじゃないか?(笑)
あの男の血を俺は引いてる訳だからな!(笑)」

ハーミ「ごめんなさい。私・・・もうこれ以上、
何も言葉が浮かばないわ・・・」

マヨス「君、やっぱり良いやつだな(笑)」

ハーミ「ありがとう・・・」

マヨス「よし!じゃあ俺は力ずくででも何が何でも、
あの男からススーを引き離す。
だから君はススーを連れて街へ飛んで行ってくれ。」

ハーミ「私、飛べないわ!」

マヨス「飛べる!俺の飛ぶ力を君にあげるから大丈夫だ!」

ハーミ「またこんな時までそんな適当なこと言って!」

マヨス「それはこっちのセリフだ!こんな時になってまで俺を疑うなよ!
君のポケットには古い飾りのついた鍵が入っているはずだ。」

ポケットの中を探るハーミ。

ハーミ「ほんとだ・・・
こっちの鍵はミルユュが持ってたはずなのに・・・・」

マヨス「昨日の夜、酔っぱらったミルユュから取り返して君のと付け替えておいたんだ。」

ハーミ「そういう抜け目の無いとこは流石ね。」

少し呆れた風に笑うハーミ。

マヨス「はいはい(笑)
そのカギ飾りを手に付けておけば空を飛べる!
わかったね?」

ハーミ「分かったわ。信じる!
でもね、この作戦が成功したらあなたが消えてしまうっていう話は信じないわよ。
絶対に!」

マヨス「勝手にしろ!じゃあ行くぞ!」

ハーミの目はマヨスの顔を最後にもう一度見つめ直そうとしたが、
マヨスはハーミの方を向いてはおらず、
もうマヨスの表情は分からなかった。

♠続く♠


< 第12話

第14話(最終話)>

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・初回投稿:2018//

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<12>

山を越えるために走り続けること数時間。

太陽がその気配を漂わせはじめ、
朝が近づいて来ている。

流石のケイサツも、木々が無法に生い茂る山の中で
たった一人の少女を見つけて捕らえるのは難しい。

少しずつ光で照らされていく先と足元に
三年前にポルンが履いていた靴を見つけるススー。

思わず立ち止まってしまい、その靴を手にするススー。

背後から何者かが近づく。

プーイ「なんだお前。」

ケイサツかと思って瞬時に振り返るススー。
だが、そのまま後ずさりしながら逃げようとする。

プーイ「お~これは珍しい。女じゃねえか(笑)」

プーイはポルンが着ていた服をきている。だがれは、もう既にボロボロだ。

ススー「あなた誰?」

プーイ「名乗るほどのもんじゃねえよ。おめえこそ何もんだ?」

ニヤニヤしながら近づいて来るプーイ。

ススー「なんでポルンの服を着てるの?」

プーイ「ああ、これか?!
あいつ、ポルンていうのか。へへっ」

ススー「やっぱり知ってるのね!
教えて!
ポルンはどこにいるの?
何をしてるの?
生きてるの?」

プーイ「ん~・・・・」

まだニヤニヤしながらススーを舐め回す様に見つめているプーイ。

プーイ「おめえもあれか?
あのポルンってやつと一緒で逃げてんのか?」

ススー「逃げてないわ!
山を越えた向こうの街に行きたいだけよ!」

プーイ「ポルンってやつを忘れられず追っかけて来たのか?」

ススー「どう考えてくれてもいいわ!
私はもう時間がないの!
ポルンのこと知ってるなら早く教えてよ!」

プーイ「おう。分かったよ。
じゃあ、おめえも疲れてんだろうよ。
俺の根城で少し休んでけ。
そこでポルンってやつのことは話してやるよ。」

ススー「嫌よ。
さっきも言ったでしょ。私時間が無いの。
ポルンがあなたと一緒に居ないのなら、
もうあなたに用は無いわ。さようなら。」

プーイ「あいつは俺の根城に居るよ。
そしてそこは俺とそいつ以外には立ち入れない場所だ。
安心しろ。」

プーイと近づいて来ているはずのケイサツの気配に用心しながら
仕方なくプーイに付いて行くススー。

プーイの根城に向かって木々を抜けると
見渡す限りの広大な平野と巨大な街が見渡せる、
何百メートルをも切り立った崖であった。

ススー「街だ!街だわ!」

プーイ「ああ、そうだ。あれがあんたが目指してきた街だ。」

ススー「やったわ!
私やったわ!
ポルン!どこにいるの?
ポルン!ポルン?」

プーイ「やつはここだ。」

崖の下を指差すプーイ。

プーイ「あいつはこの崖から
街に向かって飛んでったよ。」

ススー「は?嘘でしょ?
こんなとこから飛んだら死んじゃうわ。
たちの悪い冗談よ。
本当はどこい居るの?早く呼んでよ。会いたいわ!」

笑顔で話すススー。

プーイ「だから飛んでったんだよ。
て言うか、俺が突き落としてやったよ。
止せばいいのに、あんまりにもしつこく
あんな街に行きたがるもんだからよ。」

絶句するススー。

プーイ「俺はあの街で産まれ育ったんだ。あの街はほんとつまんねえ街でよ。それで、周りの皆んなも退屈そうにしてるもんだから、若い頃からチョットふざけて悪さしてたらよ、何だかいつの間にか俺を極悪人みたいな扱いするように周りがなりやがって。ほんとクソだあいつら!だからよ、もう流石の俺も我慢の限界で。何とかあの街を変えなきゃならねえからよ。でももうその時は俺はあの街を出るのは決めてたんだけどな。だからその前に、あの街を変えるためにブッ殺してやったんだよ。周りのやつらを片っ端から全部な。俺がご馳走してやるって言ったら、ぞろぞろ集まってきやがってよ、バカ共が。店のやつらも嬉しそうにしてたなあ。でも全部ブッ殺してやった。それからというもの、俺はここらであの街を見下ろしながら居るんだ。」

ススー「ポルンは死んだってこと?」

プーイ「そうだよ。」

怒りに震えるススー。

プーイ「あんな腐った街に行くよりはマシだろ?
俺の話聞いて、おめえもそう思うだろ?
だがおめえは死ななくていいよ。俺とここで一緒に仲良く暮らそうぜ。
もうあいつもいないことだし、どうせ行くとこなんかねえんだろ?
どっかから逃げてここに来たんだろうからよ(笑)」

♠続く♠


< 第11話

第13話 >

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・初回投稿:2018/02/16