目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<4>

 

 

● ―回想②ー ●

 

お互いのグラスを合わせることもそこそこに、
憂鬱な表情で話を始めるハーミ
: 20歳。女子大生です。:
とシシーメ
: 24歳。ハーミの友人、、、です。:

 

シシーメ
「今年の夏は一緒に居られない。」

ハーミ:?

シシーメ
「いやきっと、今年だけじゃなくてずっと・・・。」

ハーミ
「何を言っているの?
仕事が忙しいの?!
何か私に黙っている
良くない出来事でもあったの?」

シシーメ
「良くない出来事か。
そうだね。
僕らにとっては全く歓迎すべきでない事
が起きているんだ。
そして、
もうその事を君に黙っている訳にはいかない。」

ハーミ
「何?
ご家族に何かあったの?
それともC夫・・・
もしかして
重い病気が見つかったとかなの?」

シシーメ
「重い病気・・そうだね。
僕は君にとって〝許されない病気〟に
かかってしまっているのかもしれないよ。」

ハーミ
「え?!
それは何?
私達は恋人じゃない!
何でも私にサポート出来ることは
させて欲しいわ。
何があったのか教えてくれれば私だって」

シシーメ
「無理だ。」

 

またハーミの言葉を遮って言うシシーメに
驚きが隠せず語気を強めて詰め寄るハーミ。

 

ハーミ
「無理・・だなんんて。
一人で勝手に諦めないでよ!
無理じゃないわ。
今は突然のことであなたの気持が
動転しているだけ!
きっと治るわ。私、何が出来るかしら。」

シシーメ「・・・」

ハーミ
「さあ、まず話して、シシーメ。
何があったの?」

シシーメ「・・・。」

 

冷静で穏やかな口調に変えて
無理を自覚しながらもほほ笑むことで、
シシーメの意識の中に入ろうとする
ハーミだったが。
はっきりとした反応を示さないシシーメと
どうしても戸惑うしかない自分を
意図的に隠そうとする衝動への
自己嫌悪とに挟まれて、
二人の間にづかづかと分け入る
沈黙の悪魔をただ眺めているしか無い
ハーミ。

 

少しづつ少しづつ、
私たちはお互いの意識の距離を計るように
グラスワインを飲み進め、
二つのグラスがどちらも半分くらいの量になった頃。
C夫がおもむろにグラスを大きく
傾けて残りのワインを飲み干してから
ようやく言葉を発した。

 

シシーメ
「ミルユュ
:20歳。ハーミの親友。女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。:
が気になって仕方がないんだ。
この気持ちのままの僕では
君とは居れない。
僕らの関係を解消して欲しい。」

 

 

● 庭にて(花火)② ●

 

<ドーン>

 

そのけたたましい爆音が鳴り響いたのは、
弦楽トリオの演奏が終り、
楽団の奏家の女性たちを称える盛大な拍手が
会場に鳴り渡った後で、
今日の月夜の様に澄み切った静寂に
会場が包まれた瞬間だった。

 

そしてまた次の瞬間。
夜空に浮かぶ月よりもだいぶん小さな
幾つかの光の球が小さな破裂音と共に宙で開き、
開いた順番にさらさらと溶けるように落ち消えていく。

 

更に!

会場を囲んで連ねられた沢山の花火が
けたたましい音を撒き散らし、
その花火の閃光と破裂音と煙とが
文字通りに出席者達を包み込んだ。

 

そんな中だったが、
ハーミはシシーメとの別れの時の
静けさを思い出していたものだから、
この花火の喧噪で、
目が覚めた心地になって
少しぼおっとして今はいる。

 

ハーミ
(私も酔っぱらい始めているのかな。
もう色んなことでとにかく
目がしゅぱしゅぱするわ・・・・。)

 

周りには、お酒が順調に入り陽気になっていく
ミルユュや男性陣の様に歓声を上げて喜ぶ者。
呆気に取られた目で、ただ落ち着きなく会場中を
キョロキョロと見渡している者。
引火した火薬の出す煙に困り顔で
お道化た笑いをし合っている者。

 

乾杯の時にマバス
:28歳。新進気鋭の若手デザイナーでハーミの大学の先輩なんです。:
が立っていた場所に今はマヨス
:20歳。ツンデレ系の美少年。ずれた言動で、周りから浮いた存在。:
がたっている。
得意げなポーズで。

 

マヨス
「みんな!びっくりしたろ?でも盛り上がっただろ?」

会場:(歓声)

マヨス
「マバスさんがさ、
「今夜は打ち上げ花火はしない」って言うからさ。
代わりに僕が盛り上げてあげたのさ!
へへっ(笑)ざまーみろー(笑)」

マバス
「会場で見かけないと思ったら
、こそこそと花火のイタズラの準備を
していたのだろう。」

クタブ
「そうなんでしょうね。いい子ですね。」

 

華やかなパーティー会場の中でも
地味でボロな服を着替えもせずに
満足げにしているマヨスであった。

 

  •  庭にて(騒月夜)③ ●

 

連なった花火が弾けたのと同じ様に、
各々のテーブルでそれぞれに
楽しんでいた者たちが一気に
打ち解け合い始めた会場。

 

サトイウ
:52歳。建築会社の社長をしています。館のオーナーのマバス君とは懇意にしています。:
「もっと品が良くってうっとりとさせてくれる
ゲストを連れてきたよ。」

 

ハーミ達のテーブルでは、
サトイウがアテンドしてこられた楽団の女性達も加わってから、
なお一層次々とワインのコルクが抜かれ、
誰もがしたたかに酔っぱらい賑やかな時間が続く。

 

ハーミ
(どうしてシシーメは私ではなくミルユュを・・・・
なんでシシーメは私ではなくミルユュが・・。)

 

周りが楽しそうであればあるだけ
孤独が冴えてくる様で、
私はまたシシーメについて考えている。

 

ペペム
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。40歳。:
「ハーミさん。」

ハーミ
「・・・・・。はい?!」

ペペム
「ハーミさん。あなた、寂しいとか悲しいとか、
いやそもそも心ここにあらずみたいな様子が
溢れ出してしまっていて、
まるで館とこの場所が持つ感情と共鳴しているかの様。」

ハーミ
「あ、ごめんなさい。ほんとにすみません、
失礼をしてしまって。」

ミルユュ
「仕方ないんですよ、ペペムさん。
ハーミはつい最近に彼氏と別れたばかりで。
それで落ち込んでいるのよね?!
悪気はないんです。」

ペペム
「それは却って私の方こそごめんなさい。
恋の終わりは誰しもあることだし、
不本意な場合がよっぽど多いもので。
私にだって、そしてまだ5つの私の愛娘にだって
ロマンチックには語れない恋の終わりの
経験はいくつでもあるのよ(笑)」

ボワン
「僕はペペムさんの話せない
恋のお話しをもっと聞きたいなあ!」

ペペム
「あらやだボワンさん、
よしてくださいよ、
そんなこと仰るのわ(笑)」

サトイウ
「(笑)こちらの女性は音楽家だけあってか、
ふとした時の直観が鋭くてらっしゃるのさ。
私なんかも幾度となく驚かされたことがあるよ。
こないだなんかはさあ・・・・・・・」

 

サトイウはペペムとの話を続ける。

 

ハーミ
(確かにシシーメとの失恋で気落ちしている
ってのは図星だけど。
ミルユュは知らない。
あなたが理由でシシーメの気持が私から
離れてしまったってことを。
でもあなたが悪い訳ではないし。
その事をあなたへ伝えて、
実は誰よりも繊細で傷つきやすいあなたが、
あなたと私との関係がどうなってしまうのか、
今の私には分からないし、
もし打ち明けた時に間違いなく崩れてい
く私達の関係を止める気力も術も無い。)

ピモル
「そんなペペムさんは、
この館に何か不穏な気配でも感じているのですか?
先ほどの話しぶりで、この館について
詳しくもありそうでしたが。」

サトイウ
「まったく・・・。
ピモル君はなかなか諦めてくれないねえ。」

ペペム
「(笑)古~い手作りの楽器なんかが
沢山ある部屋もあるのは知っているわ。」

ピモル
「は~ぁ。
そんな部屋まであるんですね!
祈祷やおまじないの様な儀式に使う
奇妙な物なのかなあ。
どんな音ですか?
まさかそれがまるでこの世のものでは
無い様な・・・・。」

ペペム
「(笑)
私達もどうやって鳴らすのが正しいのか
分からないし、もし壊しでもしたら
大変だから使ったことはないんですのよ。」

サトイウ
「残念だったねえピモル君!
そうやって触らず構わずしてそっと
大事にしておくのが正解ってことさ。」

ピモル
「なんてことだ!
それでは僕の好奇心が騒ぎ暴れて止まらない!
あぁぁぁ・・・・サトイウさん!
もっと詳しく教えてください。
この館の秘密を!」

サトイウ
「ん~ほんとに困ったもんだなあ・・・・」

ペペム
(でもやっぱりあの子から感じる何か。
失恋したばかりだけのことかしら?!
それだけじゃないようにやっぱり感じるんだけど。)

 

 

  •  庭にて(酩月夜)④ ●

 

ピモルたちの館の話もそこそこに、
もっとハーミを元気づけようとして、
ハーミと話を続けるミルユュ。

 

ミルユュ
「えー、もしかしてその後に
更に失恋しちゃったのー??
私、聞いてない!!!」

ハーミ
「違うわよ(笑)なんでもないわ。
大きな音が苦手だから、
あんな賑やかな花火の後で大人しくなってしまっただけ!」
(こうやって私は自然と嘘をつく。
ミルユュは頑張り屋さんだし、
無理してる時も沢山あるけど、
きっと私みたいな嘘つきじゃない。
だからシシーメはきっと・・・・・)

ヤイヤ
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。27歳。:
「そうだわ!
それこそほんとに新しい恋を
始めるのがいいわ!

ミルユュ
「あー!
私もボーフレンドいないから2人で競争よ!!」

ヤイヤ
「あら。それなら私もいないのよ(笑)」

サクルン
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。30歳。:
「私だって(笑)」

ボワン
「なんてことだ!
僕たち3人もさ!」

ソスタ
:男性。マバスの友人達の内の1人。スポーツマン。29歳。:
「あ、ピモルはこの魔性の館に
恋しちゃってるのかな(笑)」

サトイウ
「そ、それなら私も恋人募集中だよ。」

ペペム
「いけませんわ。
サトイウさんには奥様も
お子様もいらっしゃるのだから。」

サトイウ
「また痛いところを言い当てられてしまいました・・。」

一同:大笑

ハーミ
(周りの話は耳に入っているが、
私は嘘の微笑を続けて何の考えも、
そもそも興味も無くうなづいているだけ。
自分の中では今の話なんてどううでもいいし。
でもだからといってこの場所を立ち去って
しまいたい訳でも無く。
私は存在そのものが心の中まで全てウソみたいだ。)

 

会場の盛り上がりは更に熱さを帯びていく。
夜が、満天の星空が、まばたきを何度しても
視野がゆっくりと狭くなっていく、
ハンガーノックの様な感覚の中に誰しもが浸っている。
そんな中ではどんなにひたすら耳を澄ませようと
しても頭の中はもわもわしたままで、
もはや自分がどんな動きをしているのかを
分かっている者が果たしてここに
一人でもいるのだろうか。

 

マヨス
「だいたい恋人なんていらないね!」

 

急にまた現れたマヨスが
ハーミ達のテーブルの話に加わる。

 

ヤイヤ
「そうね。
恋は恋人が欲しくてするものじゃないわ。」

マヨス
「もしさ。
宙に放り投げたリンゴが、
そのまま空の彼方へ上っていって
しまった時の気分て分かる?」

ソスタ
「恋人と良い関係でい続けることは
決して簡単じゃないけど、
恋人と過ごす時間はなんて
ハッピーなものなんだろうか!」

マヨス
「例えば人間が持てる理想の数の合計を
百個だとして。その内の最も大事に思う1個を
自分で見つけられずにいるとしたら?
のこりの99個はなんて無駄なもんだろうか。」

サクルン
「この手の話は照れくさくて
否定したいだけなのよね?」

マヨス
「小さかった頃に死を思って、
すごくすごく悲しい気持ちになったみたいに。
この世に生まれ落ちて来れなかったとしたら、
を思ってゾッとしたことなんてあったりする?」

ソスタ
「でも人間は一人では生きれないぞぉ!」

マヨス
「サヨナラは、いつも胸の中にだけあるんだってよ。」

ハーミ
(ちぐはぐだ。
私達はどこまでもちぐはぐだわ。
他人の話は聞いていないし。
今の私達には他人に伝えたいことも
本当は完全にゼロで、全く無いのかもしれない。
それは自分にしか見えていなかった出来事に
脳の賢い所を占有されているから。
例えばそれが良い出来事だったならば、
それに脳の中の賢い所を麻痺させられて呆ける。
悪い出来事は忘れ去れる時まで、
ぐるぐるグルグル遠巻きに眺めてみたり、
間近で見つめ回してみたり。
その悪い出来事が消えると信じて、
自分の足が擦り切れて無くなるまで歩き続ける感じ。
でも、足が無くなって歩みが止まってしまった処と
消したい出来事との二点の間の距離は変わらないままで。
ずっと眠り続ける記憶のしこり。)

マバス
「みなさん!
そろそろお開きにしましょう。
この会場は私共で片づけますので、
どうぞそのままにしてお部屋へと戻られてください。
その際、お好きなだけお酒や食事は
お部屋に持って行かれて下さいね。
リビングで朝まで語らわれていても構いません!」

 

その時、
マヨスは物音一つ立てることなく
もうその場からは消えていた。

♠続く♠


< 第3話

第5話 >

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・初回投稿:2017/10/20

『C&B HOOK-TALE』<1>

 

– First order –

“ Smoke & Cat ”

 

第1話

 

本日も、カフェ&バー・フックテイルへ
ようこそおいで下さいました。

私達の店で最も特徴的なメニューは
エスプレッソコーヒーです。

巷ではカフェでもコンビニでもシアトル系の物が多く、
当店の様なイタリア系のエスプレッソを提供する店では、
たまにちょっと格好をつけてエスプレッソ・イタリアーノと
呼んでみたりもするところもあるみたいですよ(笑)

 

あ、そうだ。
実際にエスプレッソマシーンをまじまじと
近くでご覧になられたことはありますか?

そう、きっとその多くがシルバーを基調とした
メタリックの角ばったフォルムで、
「シュコーッ!!!」「プシューッ!!!」と
蒸気を溢れさせて動くレトロな感じのあの機械ですよ。
そのエスプレッソマシーンで圧力をかけて
短時間かつ少ない水量で抽出するのが
イタリア系のエスプレッソです。

すでに身近なコンビニやシアトル系のカフェで出される
エスプレッソは、まずもって水量が多いんです。
なので、イタリア系エスプレッソの最も分かりやすい
大きな個性は格段に濃厚である点で。
ただ、濃厚ではありますがドリップコーヒーよりも
カフェインが少なくて旨味が凝縮されたコーヒーと
されてもいますよ。

 

「どちらからいらっしゃったのですか?
この辺りの方ですか!?」
「Where are you from?
For travel !? Job!?」

 

さてさて。
この店を始めて以来、実は、この近辺や
同市内のお客様はたぶん半分もいらっしゃって
いないのもこの店の面白味の1つです。

 

というのもまずは当店の立地が影響していそうです。
店を出ると目の前は1 〜 2km先のターミナル駅へ続
く国道があって、路面電車も走っていて電停もあります。
また、さらにその向こう側にはホテルもあって、
店の裏手には港があり、離島へと向かうフェリーや
ジェットホイル、そして少し先の最も広い港には
郊外のショッピングモール位のサイズの豪華客船も
日々入れ替わり立ち替わりで停泊し、
外国からの沢山の旅行客をこの街へなだれ込ませては
また吸い込む光景を毎日の様に見せてくれます。

なので、この店には、旅行や出張で来られた方や、
少し離れた別の市の方がいらっしゃってくださるケースが
多いんですよね。なので、お帰りの際のお見送りの時や
ご注文のやりとりの中なんかで、
どちらからお出でなのかを尋ねるのが私たち店の者の
楽しみにもなる訳です。

 

かたや常連の方々は、それぞれどちらかお近くに
お住まいであったり、職場がお近くであられたりする
パターンが多いのですが、そういったお客様は
カウンターの真ん前に位置した通称・カウンターのお席で
のんびりされているのが常で、
私たち店の者や常連さん同士でおしゃべりを楽しんだり
テレビを観たりして、路地裏の木陰の様な、
日常から少し外れた時間を過ごします。

また、初めていらっしゃったお客様は他のテーブル席や
ソファー席を人数や気分に合わせてお選びになられがち
なのですが、その初めの時に通称・カウンターの席に
座られた方は常連さんになりやすい。
これからお話するエピソードに登場する女性のお客様も
、初回から通称・カウンターに座られた方で、
職場がお近くにあるとのことでした。

 

トン

 

私が、新たに購入したペアのロックグラスの入った
箱の梱包を解こうと、通称・カウンターのテーブルの上に
その茶色の包みを乗せた時。

 

プァーンッ

 

開けられたドアから、店の表の路面電車の警笛の音と一緒に
真冬のピーンと張り詰めた外気を纏って1人の女性が入店された。
これが善美(よしみ)さんとの出会いとはじまり。


※エスプレッソ特有の小さなカップ。
オーガニックな角砂糖を落し混ぜる。正に絶品。※


     プロローグ

第2話


・初稿投稿日:2017.10.10

[或る用の疎]<10>第2章『由』(3)

我々が人間である以上、どの階層で生活をする者においても、情報化社会が浸透した時に、情緒が情報の質を落とす現象を止める為の情報は生み出せず、価値という言葉が嘘と同義であることを貨幣経済の元に居た人類は判ってしまったのが21世紀の半ばであった訳だ。

それでも旧来の労働に従事している者達が少なからずはいる。生活体系の指揮監督、そして意思決定や生産構造の最上位に就く者達だ。

ただ、こういった職へ従事する者達への報酬も金銭や現物資産などでは無く、勤職に際して被るストレスの軽減のためのコンテンツサービスの使用権であるらしい。

そして、世の中の8割程の者達は旧来の労働に従事してはいなく、勤職階層に対して特段の憧れや反発意識を持つ訳もない環境の中で生活をしているので、その勤職に纏わる仕組みなんかは興味を持たない。その仕組みを公表する義務や利点などを考査しながら生活する者達も極々僅かである上に、流動的に変遷していく仕組みでもあるのだ。噂では、どうやらヘッドハントから交渉を経て合意した者が勤職しているとのこと。

私達がタスケや未知予の年頃であった21世初頭で似ている事象で解説すると、一等前後賞合わせて数億円が当たる宝くじで高額当選した人みたいなものだとでも表せば分かりやすいのかもしれない。当事者と経験者のみぞ明確に知れる仕組み。

 

『そんな君は、人間ではなく時間だぞ。いづれ訪れる”時間の概念が途絶えた時”に、そんな君は何をしているんだ?』

 

これは、タスケの曽祖父・藍田亦介(あいだ またすけ)が、その死の間際の床に横たわるのを正座して上から見つめていたタスケの父に残した言葉である。

父曰くは、一定のリズムでひたすら前に進み行く時間の様な人間になろうとするな、という意味だろうとのことだ。

「自分の頃と激しいばかりに変化した時代に産まれ生きゆく君にこそ、俺の父親が伝えたかった言葉なのかもしれない。」と前置きして、タスケが10歳の誕生日にタスケの父の口から直接、それを聞かされた。

 

それから5年後の15歳になってから詩人を仕事として選んだタスケは、書庫にある爺さんの本達の中で偶然に見つけた随筆集の背表紙にあった『藍田 亦介』という文字で実の爺さんと再会した。それから詩人として、間間タスケ(あいだま たすけ)と名乗るようになって現在に至る。実の父母に与えられた名前はその時に捨てた。もう厳密なレベルでは必要とされていない”戸籍”の更新変更は簡単だ。そもそもタスケ達の世代にとっては、産まれた時から印鑑や直筆サインといった旧来の身分証明すら必要でない時代なのだから、私達にとっては簡単になった、とする方が正確か。

 

『今何をしているかよりも「今何を想像しているのか」の方が、あなたには大事なんじゃないのかしら。』

 

そして、これはタスケが実母から、詩人になる前日に掛けられた言葉だ。

<9>『由』(2)(戻る)

(続く)<11>『由』(4)


・更新履歴:第3稿<2018/05/01>

・更新履歴:第2稿<2017/12/15>

・更新履歴:初稿<2017/10/01>

 

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<3>


● 鍵 ●

???
「誰だっ!
勝手にこの館に立ち入った者はーーーーっ!!!!!!」

 

見たことのない男が
そう叫びながら出てきて、
3人は驚いて悲鳴をあげた。

 

???:(大笑い)

 

クタブ:歳は、20代半ばとでも。マバス様の館の管理人です。それ以外は内緒で(笑):
「マヨス!
リビングで見ないと思ったら、
こんなとこにいらしたのですね。」

 

マヨス:20歳。ツンデレ系の美少年。性格はけっこう変わり者?!:
「そうさ!
みんなをビックリさせたくてね!」

 

そう言ってまた一人で大笑いし続けるマヨス。

 

マヨス
「じゃあ俺は行くね!
部屋の中には何もイタズラしてないから
安心してくつろいで泊まっていってよ!」

 

クタブ「あ、どちらへ?」

 

マヨス
「先回りされるから教えないよ!(笑)」

 

私たちが来た廊下の方へと
走って立ち去るマヨス。

 

あっけに取られ静まり返る
ハーミ達3人と廊下。

 

クタブ
「大変失礼しました。
彼はこの館の建立者の遠縁の方だと
御主人様から聞いております。
この近くに住んでいるらしく、
ちょくちょく遊びにいらっしゃるのです。
御主人様が可愛がっておられて、
特にやかましいことも言わずに
彼を受け入れておられていて。」

 

ハーミ:20歳。女子大生です。:
「そ、そうなんですね。」

 

ミルユュ:20歳。ハーミの友達の女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。:
「私達よりは少し年下なのかしら。」

 

クタブ
「詳しい素性まではよく知らないのですが、
お嬢様方とあまり変わらないかもしれませんね。
今回のようなイベントごとがある時は
必ず手伝ってくれるので私も助かってはいるのですが・・・
なにぶん少し奇想天外なところがあられます。
この後も彼の手荒い歓迎の犠牲者が出そうですね。
後で平謝りして歩く私の身にもなって
欲しいです。困ったものだ・・・。」

 

マヨスが走り去っていった
先を見つめるクタブ。

 

ハーミ
(ずっとポーカーフェイスだったクタブさん
だけど、楽しそうに笑っているわ。
きっとクタブさんもマヨスのことが
好きなのね。)

 

ミルユュ
「わああ。すごく素敵なお部屋!」

 

そそくさと部屋に入っていたミルユュ。

 

ミルユュ
「ハーミも早くお入りなさいよ。
アンティークに囲まれた、とってもおしゃれな
お部屋よ。
さあ!
そんなとこでぼーっとしてないで、
さあ!早く早く!!」

 

クタブ
「ハーミさんもどうぞ。
お入りになられてみてください。
ここに居ては、また彼にどんな
イタズラをされるかわかりません。」

 

ハーミ
「そうですね(笑)
それではお邪魔します。」

 

クタブ
「こちらのお部屋は寝室が1つですが、
その寝室にはクイーンサイズのベッドが
二つございます。
そしてこのリビングルームと
最新式のシャワールームと
エチケットルームがそれぞれ
1つずつ。」

 

クタブに部屋の中を案内してもらう
ハーミとミルユュ。

 

クタブ
「そんなに広い方の部屋ではないのですが、
気に入ってはいただけましたでしょうか?」

 

ミルユュ
「はい!
凄く気に入りました。」

 

ハーミ
「私も!
そんなに広くないだなんて
とんでもないわあ。」

 

ミルユュ
「そうですわ。
私、ここに住みたいくらい♪」

 

ハーミ
「だめだめ!
ミルユュがここに住んだら直ぐに
散らかっちゃって、こんなに素敵な
アンティーク達が台無しで可愛そう。」

 

ミルユュ
「大丈夫よー!
見かねたハーミが、きっと散らかる前に
綺麗に掃除してくれるわ。」

 

ハーミ「んもう。」

 

ミルユュ
「ハーミもこっちの寝室においでよー。
とっても大きなベッドでおしゃれな
お布団が良い香りだわあ。
お姫様になった気分だわあ!」

 

寝室へ駆けて行ったかと思ったら、
もうベッドの上で飛び跳ねているミルユュ。

 

ハーミ
「こらあ!
そんなはしたないことしないのお!
壊しちゃったらどうするのよ。」

 

クタブ
「大丈夫ですよ。
ベッドもアンティークなデザインを
選んでおりますが、新しい頑丈な物なので、
ライオンと象がベッドの上で
大ゲンカでもしなければ壊れません。」

 

ハーミ
「それでも・・・
あんな子供みたいにはしゃいじゃって、
友人として恥ずかしい。」

 

クタブ
「そんなことないですよ~。
お迎えする側の私達としては
お客様に楽しんでいただくのが
何よりもうれしいことですので!」

 

戻ってくるミルユュ。

 

ミルユュ
「あーーーっ!
楽しいっ!
最高に幸せだわあ。」

 

クタブ
「良かったです。
お二人とも心行くまで楽しんで
帰られてくださいね。」

 

ハーミミルユュ
「はい!」

 

クタブ
「それではこの部屋の鍵を
お渡ししておきます。」

 

飾りの付いた古めかしい鍵と、
真新しいだけのありふれた鍵の
二つを渡される。

 

クタブ
「飾りの付いていない方が
スペアキーとなっております。
お二人でどちらか一つずつを
お持ちになられていてください。」

 

ハーミ
「はい。分かりました。
ありがとうございます。」

 

ミルユュ
「私こっちの古いけど
珍しいデザインで可愛い方にする!」

 

飾りの付いた鍵を手にする
ミルユュ。

 

クタブ
「その飾りは大変古く、
もう手に入らない上に
修理を出来る職人ももういない
という貴重な物なのだそうですよ。」

 

ハーミ
「あら、それだと
ミルユュが持っていたら
無くしたり壊したりしちゃわないかが心配だわ。」

 

ミルユュ
「もおう。
いつまで私をだらしないキャラで
いじめる気なの?
ちゃんとお守りみたいに大事に扱いますわ。」

 

ハーミ
「ほんとに?約束よ。」

 

クタブ
「ミルユュさん。
よろしくお願いしますね。」

 

ミルユュ
「はい!
この館を出る時には、
埃一つ付けずにしてお返しいたしますわ。」

 

それから私たちは
荷物を開いてクローゼットに衣服を
仕舞ってから、ちょっと会わなかった間の
近況報告で、なんてことはないが
楽しい話をはじめる。

 

 

● ―回想①― ●

 

外は、遥か高い空に漂う
薄い雲の動きに合わせて
ひっそりと光の濃淡だけを
変えて輝く星達ではなく、
いたるところできらびやかに
光る週末の灯りに囲まれた街。

 

この日、
シシーメ:24歳。ハーミの友人、、、です。:
ハーミを賑やかな
カフェレストランではなく
モダンな内装と照明の店にわざわざ連れ出した。
2人は音楽を避けてテラスの端の席に腰かけ、
聞き馴染みのあるポピュラーなワインを
それぞれで選んでオーダーし、
店内カウンターの向こうの壁一面に
毅然と並んだ酒瓶の列を眺めながら
カクテルが運ばれてくるのを待っている。

 

 

シシーメ
「もうしばらくしたらすぐに夏休みだね。」

 

ハーミ
「そう。シシーメは夏休みいつからなの?」

 

シシーメ
「う、うん。ハーミよりは短いけどもうじきかな。」

 

ハーミ
「そうなんだ。あ、わかったわ!
今夜は私達の素晴らしい夏休みの予定を立てるのに、
いつもよりもグッと静かな店を
選んでくれたのね?嬉しいわ♪
それに、こんな落ち着いた雰囲気の
お店にも連れて行ってくれるようになるなんて、
学生の頃と違ってさすがね♪」

 

少し浮かれた素振りのハーミを
いつもの優しい笑顔で見つめるシシーメだが、
口数がいつもより少ない。

 

ハーミ
「あれっ?!
もしかして緊張してるのかしら?」

 

シシーメ「う、うん。そうだね。」

 

ハーミ
「どうして?」笑

 

緊張しているシシーメが
かわいらしくて思わず
ほほ笑んでしまうハーミ。

 

シシーメ
「う、うん。今日は大事な話があって。」

 

ハーミ
「わかってるわ!
夏のバカンスのことでしょ?
どこで過ごしましょうか?」

 

シシーメ「う、うん。」

 

ハーミ
「海?
高原?
そんなリゾート地だけじゃ普通よね!
テーマパークで思いっきりはしゃぐのも楽しいわ♪」

 

シシーメ「そうじゃないんだ!」

 

突然に声のボリュームを上げて
私の話を制するシシーメが
申し訳なさそうに話を続ける。

 

シシーメ
「・・・ごめん。そうじゃないんだ。
今日したい話は夏休みのことじゃない。」

 

ハーミ
「なんだろう・・。」

 

シシーメがしたい話に見当もつかず
呟くハーミ。
そしてちょうどその時に
グラスワインが運ばれてきた。

 

シシーメ「ありがとうございます。」

 

ほっとしたように
バーテンダーへお礼を告げるシシーメの表情が、
ハーミの胸の真ん中に嫌な予感をぐっと
押し付けてはさっとその手を引き戻した様だった。

 

ハーミ「もしかして。楽しくない話ですか。」

 

嫌な予感と一緒に
シシーメへの心の距離も感じたハーミは
思わず敬語で尋ねていた。

 

 

● 館の庭にて(夕べ)① ●

マバス「かんぱーい!!!」

 

手にしたスパークリングワインの
グラス同士を合わせる音が、
BBQ会場となっている庭の方々で
キラキラと弾んで、否応にもなく
参加者達の気分を高めていく。

 

マバス
「皆様をこの田舎町へお誘いするにあたって、
手前味噌ながら私なりに苦心をして揃えた料理と、
どこまでも続くかのように広がる
美しい自然に包まれたこの会場の空間を
存分に召し上がってください。」

 

幾列にも並んだテーブルの上には、
骨董品の器に丁寧に乗せられた
沢山の美味しそうな料理の数々が
広げられている。
そして煉瓦作りのBBQコンロ、
タキシードを着たバーテンダーが
ワイングラスに布巾をゆっくり
沿わせながら寡黙に待つ
バーカウンターも参加者達の心を躍らせる。

 

ボワン:男性。マバスの友人達の内の1人。ムードメーカー。28歳。:
「美味しそうなものが沢山あるね!」

 

ソスタ:男性。マバスの友人達の内の1人。スポーツマン。29歳。:
「僕らが取ってきてあげるよ。

 

ピモル:男性。マバスの友人達の内の1人。インテリ。30歳。:
「ドリンクは何が良いかな?

 

先ほどリビングで言葉を交わした
マバスの友人男性の方々が
ハーミとミルユュへ声を掛けてきた。

 

ピモル
「今さっき館に着いたばかりの
僕は初めましてだね。
ピモルですよろしく。」

 

ハーミ、ミルユュ
「よろしくお願いします。」

 

ミルユュ
「マバスさんの後輩のミルユュです。」

 

ハーミ
「同じくハーミです。」

 

音楽が流れだす。

 

ハーミ
「綺麗な音・・・」

 

ピモル
「弦楽トリオが
”アイネクライネナハジムトーク”
を演奏してる。」

 

いつの間にか会場の中央に
優雅なドレスを着た3人の女性が
音楽を奏でている。
華やかな音楽にも引き連られて
会話を弾ませる5人は
自然とこの館の不思議に話が及ぶ。

 

ピモル
「君たちの部屋はどんな部屋だった?」

 

ボワン
「ピモル!
彼女達にいきなりそんな聞き方を
したら失礼だろう。
変な趣味を持ってるズレた男だって思われるよ。
もしかして、もう酔っぱらってんのか?」

 

ソスタ
「これでもピモルは僕ら仲間内の中では
インテリで通っててさ。この館の事、
そして君たちにあてがわれた部屋の事
を聞きたがってるだけなんだけどね。」

 

ピモル
「そうだよ・・・ボワン!
酔っぱらって変な事を口走るのは
いつもの通り君の役目さ(笑)
僕はアルコールで憂さを晴らすよりも
知的好奇心を満たしたいタイプだろ?」

 

ソスタ
「だがそれはそれで変わった趣味だ(笑)
ねえ?
君たちもそう思わない?!
サッカーや乗馬なんかのスポーツを
楽しむ方が何百倍も普通で健全さ。」

 

一斉に笑い合う私達5人。

 

ピモル
「ひどい言われ様だな・・・
頼むから静かにしてくれよ(笑)
それで、
君たちの部屋には何か変わった
所は無かったかい?」

 

ミルユュ
「う~ん。
アンティーク調の立派な家具に
ばかり目が行っていたのか、
変な処は思い浮かびませんわ。」

 

ハーミ
「私も同じ・・・
何も無かったはずですわ。
皆さんのお部屋は何か
変だったのですか?」

 

ミルユュが持っている
鍵についた飾りが
ふと頭に浮かんだことは
ちっとも気に留めなかったハーミ。

 

ソスタ「そりゃあもう!」

 

ボワン
「気持ち悪いったら
ありゃしないって話だよ!」

 

ハーミ、ミルユュ
「えっ?」(笑)

 

ハーミ
「どういうことですの?」

 

ピモル
「いやいやレディー達、
気持ちが悪いなんて大きな誤解さ!」

 

ソスタ
「何言ってんだ!
それを見た時の驚きったら・・・
悲鳴を上げそうだったよ(笑)
そして未だに慣れずに身震いしそうさ!」

 

ボワン
「僕らにあてがわれた部屋にはね、
これまでに見たことも想像したことも無い
様な大きく不気味な仮面が
部屋中の壁に幾つも貼り付けてあるんだ!」

 

ソスタ
「僕らはまるでその不気味な
仮面たちに一日中監視されているような気分・・・」

 

ピモル
「あの仮面たちはお守りなんだってよ。」

 

ボワン
「信じられない。
あれはまるで逆に呪いの仮面・・・」

 

ソスタ
「確かに呪いかも!
あんな不気味な仮面たちを
ニコニコ楽しそうに見回しながら
ブツブツ独り言を呟きながら
写真撮ったりしている
ピモルの行動を見ていたら・・・」

 

ボワン、ソスタ
「正に仮面に呪われた男の姿そのものだ!!」

 

ピモル
「もう君たち二人にはお手上げだよ・・・」

 

一斉に笑い合うハーミ達5人。

 

サトイウ :52歳。建築会社の社長をしています。館のオーナーのマバス君とは懇意にしています。:
「随分と盛り上がっている様じゃないかね、
君達。」

 

楽団が
モーツァルトのディベルティメントを
奏でだした頃、
赤ワインの入ったグラスを片手に
サトイウがハーミ達5人の輪に加わった。

 

ミルユュ
「サトイウさんはこの館のことに
ついて詳しくてらっしゃるんですよね・・・?」

 

サトイウ
「うーん、
今となってはそうとも言えるかなあ。
この土地の周りに昔から住んでいる人は
ほとんど居られなくなってしまったし。
そしてマバス君をこの館へ始めに
連れてきたのは私だからねえ。
君達がこうして仲良く楽しんでいるのも
私のお蔭と言って良いのかもしれないね(笑)」

 

館の部屋についてのこれまでの
私たちの話をピモルがサトイウに説明した。

 

サトイウ
「そうか・・・・・・・・・。」

 

静かにまぶたを閉じて
聞いていたサトイウ。

 

サトイウ
「結局、君達までも・・・。
若さとは時代がどれだけ過ぎようとも、
いつまでも罪深きままのものか。
君達が誰もこの館に取りつかれることが
無いのを祈るばかりだねえ。」

 

遠い目で館の方を見つめながら
話すサトイウの消え入りそうなか細い声に、
一気にトーンダウンするハーミ達だった。

 

ボワン
「ハッ、ハハ、ハハハハ・・・ハァ・・・。」

 

場の沈んだ空気を取りつくろう
ように笑い声を上げたボワン。

 

ハーミ
(いつも陽気なボワンさんの笑い声まで
あんなに乾いてしまって・・。どうしよう。)

 

ボワン
「そ、そうですよねサトイウさん!
だけど残念ながら、ピモルなんて
既に手遅れかもしれませんよ・・・
ハハッ・・・」

 

サトイウ
「さっき聞かせてもらった話振りだと
ピモル君は物知りなようだし、
この館の不思議に特別な興味を持って
しまうのも当然だろうが。
忠告しておく!
決して深入りしてはいけないよ。
ピモル君、
くれぐれも。」

 

ミルユュ
「どうして・・・?」

 

ピモル
「どうしてですか?」

 

ソスタ
「・・・何か恐ろしい出来事が
振り掛かってきたりするんですか?」

 

ピモル
「ボワン!
そんな不吉なこと言うなよ!
僕らは何もそんな大それたことを
しようとしている訳でも
した訳でもないじゃないか。」

 

そしてピモルは恐る恐るな
口振りながら、じっとサトイウを
見据えて話を続けた。

 

ピモル
「この館の各部屋には
それぞれ違った装飾が施されていますよね?
僕がこの大きな館の全ての部屋の違いについて
知っている訳ではないですが。
例えばこの国の形ではない
見慣れない文字で書かれた聖書や、
エキセントリックな色合いの衣装や
調度品、絵画、食器、武器などといったものが
どこかしこに溢れている。
そしてそれらの整合性が取れるナニカが
完全に欠落している様に思います、僕は。
どうやら、人里離れたここの広大な敷地と、
その敷地内に存在するこの館の過去が抱える
歴史的意味には、一部の限られた人だけしか
知らない秘密があるのではないですか?」

 

一同、しばらくの沈黙の後。

 

サトイウ
「君たちはまだ私なんかと比べるまでもなく
とても若い。その上に、きっと優秀な方々で
成長欲も強く、行動力も伴っていることだろう。
そして必ずや素晴らしい人生を進んでいく。
さっきまで皆さんが携えていた様な
はち切れんばかりの笑顔を携えてね。」

 

優しそうな笑顔を少し見せたかと思うと、
悲しい表情を見せて続けるサトイウ。

 

サトイウ
「だがその笑顔が、
「知らない」からこそ現れる笑顔だとしたら・・・。
そりゃあこれからもっともっと沢山の経験や
失敗も繰り返していくからこそ、
君らなりの豊かな実りを育むことが出来るし、
その実りを周りの人たちと分け合うことで
更にどんどんと世界も広げて行くことも出来る。
しかし、知ってはいけない現実に・・・・・
それを知ってしまったことによって
我々儚い人間という生き物は、
自分で気づかない内に闇の住人と
なってしまうこともある。」

 

楽団が
ベートーヴェン/弦楽三重奏
のための
セレナーデop8.
を奏でている。

 

サトイウ
「ほら、海岸の方を見てごらん。」

 

私達は一斉に海岸の方へ顔を向ける。
水平線の中へ沈みゆく太陽。
空は夕から夜へ。
迫る夜の闇が深くなっていくまでの時間が
とてつもなくゆっくりと流れていく。

 

サトイウの年相応に落ち窪んだ目元から
語り掛けられる声に遠慮した星が、
まるで輝きだすのを躊躇しているかの様だ。

 

サトイウ
「今沈みきった太陽は、
また朝になれば僕らの元へ戻ってくるよ。
人ではないからね。
ただひたすら何億年も繰り返しながら
私達を見守り励ましくれる。
だが人間は一度闇へ落ちてから
それまでと同じ様に帰って来れるのだろうか。
それを試すことは勇気だろうか?
どこまでも愚かで儚い人間にとって・・・・・・」

 

私は思わず振り切る様に声を出していた。

 

ハーミ
「大丈夫です!きっと大丈夫!」

私達の五感は楽団の音だけを感じているかのような静寂。

 

ハーミ「そう信じたい・・・」

 

♠続く♠


 

< 第2話

第4話 >

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・初回投稿:2017/09/20

『C&B HOOK-TALE』プロローグ

=2017年9月15日=

天気:大型の台風18号が九州本土へ接近中。

鼻腔を漂い撫でる甘い香りをそっと閉じ込める様に
丸くして合わせた両手を顔の前に真っ直ぐ立てて目を閉じ、
じっとテーブルの天板に両肘を突いたままでいる人。
それが女性であれば、涙をこらえながら感情の昂りに
神経を委ねている。
男性ならば、望ましくない妄想の展開に集中しながらも、
それが雨散霧消するのを期待している。
そして、男女に関係なくそんな人達は待ち合わせで
人待ちをしている最中ではない。
でも心の中ではきっと誰かを待っている。

今この瞬間に、そういう風に心の中で密やかに
誰かを待っているロマンチックな人が
世界中にどれだけいるのだろうか?

そんな事を考えながら、私はまだピンと張ったままの
ソフトケースから取り出したラッキーストライクに
古いだけで値段は二束三文であろう錆た真鍮の
Ωジッポライターで火を付ける。
そしてオイルがわずかに香る。
それから、まだ無人の店内を見渡して首筋をほぐすのに
頭をぐるっと回しつつ扇風機かゴジラの気分で
息と煙を四方に吹き散らかす。

私の真後ろにあるキッチンからは、
仕込中の特製チキンカレーの音がする。
これは凄く辛いとよく言われるのだけれど、
辛くなければカレーじゃない、と
私は頑なに辛くするんです。

そのカレー鍋の中には、さっき入れたばかりの
野菜や鶏肉が、あっつ熱に滾る湯の中を
回遊している最中で、先に鍋の中へ放り込まれた具材達は、
挽きたてなエスプレッソ用の珈琲豆やあれやこれやも加えた
カレースパイスが投入されるクライマックスの時まで、
蒸気の気泡に突き上げられて押されて茹でられてフツフツ
鳴りながら踊り続けている。
盆踊りとサンバとフラメンコとケチャとコサックダンスと
ベリーダンスとタップダンスと日本舞踊と社交ダンス等、
世界中の全ての踊りがそこには集まっている様に見える。

だがともすれば、賽の目にカットしたタマネギ、ニンジン、
ジャガイモが、手羽先という大振りの抑圧的侵略者から
逃げ惑い、助けを求めている風にも、逆に一緒になって
遊んで歓喜に昂ぶってはしゃいでいる風にも見えるから
可笑しいんです。

 

あ、いけない。話を元に戻しましょうか。
待ち人についてしていた話へ。

 

この私の店にも、待ち合わせで使って下さるお客様は
もちろん沢山いらっしゃいます。
もしくは、待ち合わせの予定までの時間合わせで
いらっしゃる方とかもね。

なので誰かを待っている人は日々何人も
お見かけをするのです。
そして、そんな毎日の時間が過ぎてきた内に、
人を待つという行為は、紛れもなくあなたの元へ
訪れる誰かへ向けられた待ち合わせの行為とは
違って、単にとても静かで密やかな”期待”へと
向けられる行為なんだということに気付きました。

それから、いつの日からか、待ち合わせや
時間合わせでいらっしゃって寛いでおられる
お客様だけではなく、この私の店にいらっしゃって下さる
全てのお客様の素振りが、期待をそうっと抱え持ちながら
誰かではない何かを待っている姿に
見える様にもなったんです。

そう、実はね。
カフェ・バーは誰かを待つ場所じゃないんですよ。
カフェ・バーは何かが起こることを期待して訪れる場所。

なぜだか分かりますか?

その答えは。

 

「昼間から夜遅くまで開いている」

 

から。

 

♦ つ づ く ♦


※これは、実際に店内ディスプレイされている
ヴィンテージのカメラ型オイルライター


第1話


・初稿公開日:2017.09.21

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<2>

●館の中の応接リビングにて●

 

クタブ:歳は、20代半ばとでも。マバス様の館の管理人です。それ以外は内緒で(笑):
の案内でまずリビング通される
ハーミ:20歳。女子大生です。:
ミルユュ:20歳。ハーミの親友。建築の勉強をしている女子大生よ。:
するとそこには既に、
何名かの人達がくつろいでいる様子。

 

クタブ「それでは、
お二人の長旅の疲れを癒す当館自慢の
フレッシュフルーツジュースをお持ちします。
皆様がお揃いになるまで、
今しばらくこちらでお寛ぎになられていてください。

 

そう言い残して優美に
立ち去る管理人・クタブ。

 

ボワン:男性。マバスの友人達の内の1人。ムードメーカー。28歳。:
やあ、君たち!
僕らとは初めましてだよね?」

 

ミルユュ
「えっ?!・・・ええ。
初めまして・・・。」

 

緊張の張りつめた顔で私を一瞥してから、
挨拶を返すミルユュ。

 

ソスタ:男性。マバスの友人達の内の1人。スポーツマン。29歳。
「初めまして。
僕はBの友人のソスタ。
そして彼はボワン。」

 

ボワン
「急に話しかけて少し驚かせて
しまったみたいで。ごめんね。」

 

ソスタ「ごめん。」

 

とても恐縮した表情で
私たちの顔を覗き込む
ワンとソスタ。

 

ハーミも内心戸惑いながら
慌てた仕草をしている。

 

ミルユュ
「お二人はマバス先輩のご友人の方々
なんですね!すみません。
この子が人見知りなもので
不愛想になってしまって。

 

おどけながらハーミを指さすミルユュ。

 

ハーミ(えっ???)

 

ミルユュ
「初めまして。ミルユュです。
よろしくお願いします!」

 

ハーミ「あ、わ、私は!」

 

急いで挨拶しようとするハーミを
制するように話を進めるミルユュ。

 

ミルユュ
「そしてこの子が私の親友のハーミです。
私たち二人ともマバス先輩の後輩なんです!」

 

ハーミ
「は、はい・・ハーミです。
よろしくお願いいたします。」

 

ミルユュ
「私たち全然驚いてなんかないですよ。
館に来たのが初めてで。
目にするもの全てが目新しくもあって。
心ここにあらずだっただけなんです、
きっと。
なんだか世間知らずみたいで恥ずかしいわ。
ねえ?ハーミ!?」

 

ハーミ
「そ、そうなんです。
こちらこそすみませんでした。
お気になさらないでください。」

 

ミルユュに合わせて笑顔を作って
見せるハーミ。

 

ソスタ
「そうか、安心したよ。」

 

ボワン
「うん、ほっとした、良かったよ。
それに、お二人とも、どっからどう見ても
れっきとした素敵なレディーだ。」

 

ソスタ
「その通り!これからも仲良くしてね!」

 

笑顔で立ち去ったボワンとソスタ。

 

クタブ「お待たせしました!」

 

美しいカットの散りばめられた
細長く背の高いグラスに注がれた
鮮やかなジュースをトレイに
載せて戻ってきたクタブ。

 

ハーミ
「ありがとうございます。
ちょうど管理人さんがいらっしゃらない間に
ボワンさん、ソスタさんと
お話させていただいてました。」

 

ミルユュ
「お二人とも紳士的な方々で。
楽しいバカンスになりそうです。」

 

クタブ
「そうですか。それは何よりでした!
まだ後数名のお客様がいらっしゃいますが、
皆様がご主人様のご友人でらっしゃって
素晴らしい方々ばかりです。
あ、そうだ。
あそこに座ってらっしゃるサトイウ様とも
お引き合わせを致しましょう。
どうぞこちらへ。」

 

クタブに促されるまま
リビングの真ん中の方へと
進むハーミとミルユュ。

 

クタブ
「サトイウ様。
マバスの大学の後輩でらっしゃる
レディーお二人をご紹介いたします。

 

手にしていたコーヒーカップを
静かに置いて、私達の方を
振り返るサトイウ。

 

サトイウ:52歳。建築会社の社長をしています。館のオーナーのマバス君とは懇意にしています。:
「これはこれは!
こんなに溌剌としてお若くてお美しい
お二人をご紹介いただけるなんて
光栄ですね。」

 

恭しく礼をして穏やかに
ほほ笑むサトイウ。

 

ミルユュ「そんな(照れ)・・・。」

 

ハーミ
「初めまして。私はハーミ。
そして友人のミルユュです。
よろしくお願い致します。」

 

ミルユュ
「ミルユュです。よろしくお願い致します。」

 

サトイウ
「初めまして。
私はマバス氏があなた方と同じくらいの
歳の頃から仲良くさせてもらっているサトイウです。
よろしくね。
まだ皆さんが揃われるまでには
少し時間があるようだ。
どうかな?ハーミさん、ミルユュさん。
海の見渡せる窓辺の席で私の無駄話に
付き合っては頂けますまいか?
いつもはクタブが付き合ってくれるのだが、
今日は特別忙しそうにしている・・・。」

 

ミルユュ「私たちでよろしければ是非♪」

 

ハーミ「はい。」

 

サトイウ「嬉しいね。ありがとう!」

 

それから4、5名の方が来て
全員が揃うまでの間、
私達3人は水平線に向かって落ちていく
夏の太陽ときらびやかな海原を
眺めながらのんびりとした時間を重ねた。

 

マバス:28歳。新進気鋭の若手デザイナーと周りからは言われてはいます。ハーミの大学の先輩です。:
「こんにちは。皆様お揃いの様ですね。」

 

マバスがいつの間にか
リビングに入って来ていて、
来客者へ向けての話を始めた。

 

マバス
「本日は遥々このような古いだけが
取り柄の館へご足労いただきまして
ありがとうございます。
今夜は当館の庭でBBQ。
明日は館前のプライベートビーチで
マリンスポーツでもお楽しみ頂けるように
用意をしております。
体力の許す限り、
心行くまで存分にお楽しみ下さい!」

 

拍手と歓声に包まれるリビング。

 

マバス
「では、今回はじめて当館へいらっしゃったお客様は、
ご宿泊いただく部屋へご案内させていただきます
。管理人のクタブの方から順次お声掛けをさせていただきますので、
お荷物を持って移動されてください。
それでは、
陽射しが落ち着きかける18時に庭へお越しください。
それまでは部屋でゆっくりと。
あ、
当館の中の探検はおすすめしません。
迷子になって戻って来れなくなっちゃう
かもしれませんよ・・・。笑」

 

サトイウ
「わっはっは(笑)
マバスさんの言うとおりだ。
こちらの館は古いだけが取り柄じゃない、
不思議も持ち合わせた館ですから、
あまりに散策を楽しむのは
おすすめしませんよ(笑)」

 

ミルユュと目を合わせて
ビックリしている様子のハーミ。

 

ハーミ
「えっ?・・・なんだか怖いわ、・・・私。」

 

サトイウ
「いやいや。
なにもヴァンパイアや狼男が
住んでいるわけでは御座いませんから!
そんなにも怖がることは無いですよ、
お嬢さん方。
この館もあなたがた人と同じ。
マバスさんの様に大事に礼儀を持って
接すれば何も怖いことなんてありません。
・・・でも無礼な詮索や扱いをすると・・・。
この館はそれを黙っては受け入れてくれない
かもしれませんねえ。」

 

ミルユュ
「いやだあ、サトイウさん!そ
んなこと言わないでくださいよお。。」

 

今にも泣きそうな表情のミルユュ。

 

ハーミ
「ミルユュは自分のお家のお部屋も
綺麗に出来ないくらいだから、
きっとこのお館にお説教を受けることに
なるわね(笑)」

 

ミルユュ
「なによハーミー!
そんな恥ずかしいこと言わないで!
このヴァカンスが終わって帰ったら
すぐにお部屋を掃除して、
ママのお手伝いも沢山しますから、
館さん許してくださーい。。」

 

ボワン
「大丈夫!
なにか起きても僕ら騎士が君のことを
守ってあげるから(笑)
お願いだから泣かないで子猫ちゃん♪(笑)

 

リビングが爆笑で包まれる。

 

サトイウ
「あれあれ。
少し脅かしすぎたかな。
すまないねレディー達(笑)」

 

マバス
「皆様!
せっかくのヴァカンスですから、
お互いにマナーを守って快適に楽しく
過ごしましょうね!
そしてこの老いぼれ館にも優しくしてあげて
くださいね。」

 

ミルユュ「はぁい・・・グスッ。」

 

少し馬鹿にもされて恥ずかしいやら
悔しいやらのミルユュが小さな子供の様にも
見えて、大きな笑いが収まらないままの
リビングなのだった。

 

 

●客室までの通路にて●

 

ミルユュ
「もう!ハーミったら、
さっきはなんであんな大勢の、
しかも初めてお会いする方がたの前で
私の恥ずかしい秘密を話したのよ。」

 

ふてくされて言うミルユュ。

 

ハーミ
「あら。
お部屋が散らかってるのは本当だったの?」

 

ミルユュ
「まあ!
白々しいったらありゃしない。
あなた、よーっく私のこと知ってるでしょ!」

 

ハーミ
「でも。
ママのお手伝いのことは勝手に
ミルユュが言ったのよ(笑)」

 

ミルユュ
「あ・・・そうだったわ・・・
でも!でも!!」

 

ハーミ
「それに素敵な騎士が助けに来てくれるって?!
良かったじゃないこと?」

ミルユュ
「それもそうね!
少し恥ずかしかったけど
許してあげるわ!!」

 

ハーミ
「まあ、
なんて身勝手な人なのかしら(笑)」

 

ミルユュ
「それが私よ!
よーっく私のこと知ってるハーミだから
分かっていたでしょ!」

 

ハーミ「もちろんよ!」

 

そして笑い合うハーミとミルユュ。

 

クタブ
「騎士さんが守ってくださっていることですし。
もしよろしければ。」

 

部屋まで案内するために、
私たちの前を歩いていた
管理人・クタブが振り向いて
話しかけてきた。

 

クタブ
「お荷物を部屋までお運びした後、
よろしければ少しこの館の中を
ご案内致しますが、いかがですか?
それよりもまだお疲れでしょうか?」

 

ミルユュ
「素敵♪ぜひお願いしたいわ!
ねえハーミ?」

 

クタブ
「そうね♪怖がりのミルユュでも
まだ明るい内は平気だもんね?笑」

 

ミルユュ
「あら!
私には騎士が付いてるんだから
いつでも平気なのよ。
よっぽど夜の方がロマンチックで
良いくらいだわ。」

 

ハーミ
「まあミルユュったら。
ロマンチストなんだか、
ただの強がりなんだか?!(笑」」

 

そうこうして歩いている内に、
ハーミとミルユュに割り当てられた
部屋の前に3人は着いた。
すると突然。
ハーミとミルユュのために
用意されている部屋のドアが
おもいっきり勢いよく開かれた。

♠続く♠


 

< 第1話

第3話 >

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・初回投稿:2017/09/10

・更新履歴:2017/10/04

[或る用の疎]<9>第2章『由』(2)

2059年現在、間間タスケは24歳の男性。

彼も、世界中の大多数の他の人間と同じく職業は特に無し。
この現代には前時代的な労働はテクノロジーにより自動化されて人間が従事する労働は消滅する時期に至り、人類の無職化が図られたことで、前時代的な貨幣経済の増幅進行は中断された。
そして貨幣が存在せず、金稼ぎも存在しない世の中となったのだが、仕事はある。タスケは詩人ではある。詩人を仕事としている。

「生活のための仕事」を形成する「労働と職業」が民衆の生活の中から無くなった現代においても、学校と学生は存在する。生活の術と未来を作るための教養を広めたり築く方法として。
仕事をしない者は学校で学ぶ事が出来て、20歳を過ぎて仕事も学びもしたくない者は存在しない。
しなければならない事が無ければ、何をしたいのか解らなくなる事もない。

そもそも根源的に「何もしたくない」とする者には、禅(zen)や涅槃(nirvana)などといった、21世紀中に ”文化活動” へと昇華されきったことで今では仕事の代替とされる様になった ”風俗” が、そんな者達の立つ瀬となったからだ。
そしてそんな者達の日常は、人類の成熟のために変化や研鑽を育むタイプの「仕事」を行う者として期待をされる社会的価値が明確なものとなった。また、その価値はどの全ても同等である。

 

さて。未知予は22歳の学生で子供はまだいないし、もちろん就職活動はしていない。
それは、就職という概念を現代の人間は持たされていないのだから、当然で仕方が無い。

だが、タスケが「詩人」という仕事を持つ様に、未知予も幾つかの気に入った仕事を持っていて、その仕事達を気の向いた時にしていて、今のところ、どれか1つの仕事に絞る気はまだない、らしい。

 

そんな彼らの生活スタイルが生じる理由とはどういうものなのか?
それは今から9年前の2050年の出来事だった。
世界は「世代を越えて、皆んなが共有できる未来である平穏な状態」をまず第一に保つため、人々は労働ストレスの無い生活を最優先とする中で平和に向けての仕事に出来うる限り従事する、という取り決めが施行されて世界の金融市場を終焉する試みが始まったのだ。
なぜか?「世代を越えて、皆んなが共有できる未来を持つこと」を ”社会の成熟” と位置付けたから、だとのことだ。

また共有との反面で、一般生活の中での個々人の多様化の発現と、その許容の風潮は、21世紀初頭の我らが日本国でのレベルも世界と足並みを揃え、同時に地球の隅々まで世界平和が行き渡った。

その事実を知らないまま、自分達だけのコミュニティーの中で大きな変異の無いまま何代にも渡って平穏に暮し続けている民族も相変わらず複数ある。
ただ、あまねく資本主義社会における人々の多様性とは資産を永続的には産まず育まず、独創性は争いに収束する事となり、保有資産や年間所得額を足場にしたピラミッドの構造は成り立たなくなっただけな様に私は思う。

 

<8>『由』(1)(戻る)

 

(続く)<10>『由』(3)

 


・更新履歴:第2稿<2017/12/15>

・更新履歴:初稿<2017/09/01>

 

目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<1>

♣主 な 登場人物 の 紹介♣

・ハーミ
「20歳。女子大生です。」

・ミルユュ
「20歳。ハーミの友達の女子大生。
建築の勉強をしてい
る女子大生よ。」

・マバス
「28歳で、新進気鋭の若手デザイナー
と周りから呼ばれ
てはいます。
ハーミの大学の先輩です。」

・シシーメ
「24歳。ハーミの友人
、、、です。」

・サトイウ
「52歳。建築会社の社長を
しています。館のオーナーの
マバス君とは懇意にしています。」

・クタブ
「歳は、20代半ばとでも。
マバス様の館の管理人です。
それ以外は内緒で(笑)」

・ボワン:男性。マバスの友人達の内の1人。
ムードメーカー。28歳。

・ソスタ:男性。マバスの友人達の内の1人。
スポーツマン。29歳。

・ピモル:男性。マバスの友人達の内の1人
インテリ。30歳。

・サクルン:女性。マバスの友人達の内の1人。
音楽家。30歳。

・ペペム:女性。マバスの友人達の内の1人。
音楽家。40歳。

・ヤイヤ:女性。マバスの友人達の内の1人。
音楽家。27歳。

・マヨス:20歳。ツンデレ系の美少年。
性格はけっこう変わり者?!

 


● 自 室 に て●

ハーミ:20歳。女子大生です。:「おはよう。」

 

・・・・沈黙・・・・

 

ハーミ「お・は・よー!!」

 

部屋の窓とカーテンを一息に開ける。

 

《んにゃあ》

 

たまたまノラ猫が通りがかった。

 

ハーミ「あなたがそこに居てくれた
だけでも嬉しいわ(笑)ありがとう。」

 

窓は開けたまま、
カーテンだけ閉めてリビングへ。

 

 

● リ ビ ン グ に て●

ハーミの父「おはようハーミ!
今日は良い天気だ。次に雨が降る予報は
5日後だよ。ほんとうにそうなったら
10日間以上も雨が降らないことに
なる。こんなに雨が降らないと
良くないよねぇ?!
異常気象なんじゃないかな…
ハーミもそう思うだろう?」

 

ハーミの父は紅茶を片手に
タブレットの画面をスクロール
しながら、お約束のニュース
トピックから大げさな心配事を
している。

 

ハーミ「わたし、自分の事で
頭いっぱいだから、天気なんて
気にもならないわ!」

 

ハーミの父「はっはっはっ(笑)
その調子、その調子!」

 

そしてこれもお約束の
トンチンカンなひと言。

 

ハーミの母「さあ、食事を済ませた人から
ドンドン出かけなさいよ~。
ママだって忙しいんだから~」

 

私の分の朝食を持ってくる母と、
済ませた自分の分の食器を持って
キッチンに置いて、出かけようと
玄関へ向かう父。

 

ハーミの母「ハーミ。
シシーメとは仲良くやっているの?」

 

ハーミ「シッ!
パパに聞こえちゃうでしょ?!」

 

ハーミの母「あら、
いいじゃないの~。
そんな恥ずかしがらなくたって!」

 

ハーミの父「行ってくるよー。」

 

ハーミの母「あら、ちょっと待って~。
行ってらっしゃ~い♪」

 

父の出勤を見送りに玄関へ向かう母。

 

ハーミ(何よ!こっちの気も知らないで・・・
パパもママも大嫌い!)

 

朝食には手を付けずに、
さっさと自室へ戻っていくハーミ。

 

 

 

● 自 室 に て●

《バタン》

 

自室のドアを閉めてベットに
腰掛けるハーミ。

 

ハーミ「はぁ・・・。
毎日毎日、一生懸命に
あのことを忘れようとしているって
いうのに・・・。
素敵な夏休みになる予定が
めちゃくちゃだわ・・・。
どうして私ばっかりこんな目に!
どうして・・・。
最悪だわ!どうしてっ?!」

 

ミルユュ:20歳。ハーミの友達の女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。:
「ハーミ~!!」

 

開けっ放しにしていた窓の外から
友人ミルユュの声がする。

 

ミルユュ「ハーミ~!!ねえ、
いるんでしょう?!おーい!!」

 

カーテンを開いて外を覗くハーミ。

 

ハーミ「どうしたの?
今日は学校休みだよね?」

 

ミルユュ「そうだよ!
だから誘いにきたのー(笑)」

 

ハーミ「さそい?」

 

ミルユュ「どーせ暇してるんでしょ?
マバス先輩の別荘に遊びに行こうよ!
急な話だけど、私もさっき誘われたの!
BBQパーティーが今夜あるんだって♪
マバス先輩が最近買った、と~ても素敵な
別荘なんだって噂よ!
夏休みをもっと楽しもう!」

 

ハーミ(ミルユュったら・・
・笑い事じゃないわよ・・・
私はまだ凄く落ち込んでいるの
知ってるくせに!
・・・いや、だからわざわざ
誘いに来てくれたんだ。)
「うん!行く!」

 

ミルユュ「OK~♪」

 

ハーミ「すぐ準備してくるね!」(ありがとう。ミルユュ!)

 

 

 

● 館 の 入り口 に て●

マバス:28歳で、新進気鋭の若手デザイナーと呼ばれてはいますが。ハーミの大学の先輩です。:
「ミルユュ!ハーミ!
久しぶり!ようこそ、我が館へ!」

 

ハーミとミルユュ
「お久しぶりです!お世話になりますm(__)m」

 

マバス「2人とも相変わらず仲良しだね。
ぴったり声も仕草も合っていて
双子みたい(笑)」

 

ハーミとミルユュ「そうですか?笑笑」

 

マバス「ほらっ!また一緒(笑)」

 

ひたすら笑ってしまっている3人。

 

マバス「こんな思いっきり笑ったなんて
最近はなかったなあ。
2人を招待して良かったよ!」

 

ミルユュ「そんなー(笑)
楽しみはまだまだこれから!
ですよね??」

 

マバス「もちろん(笑)
じゃあ館まではこの馬車に乗って行こう。
さあ、乗って!乗って!!」

 

クタブ:歳は、20代半ばとでも。マバス様の館の管理人です。それ以外は内緒で(笑):「お嬢様方はじめまして、
当館の管理人をしております
クタブです。ようこそ当館へ
いらっしゃいませm(__)m
馬車へは足元にお気を付けに
なられてお乗りください!」

 

ハーミとミルユュ「はい!
よろしくお願いします!m(__)m」

 

マバス「じゃあ!
このレディー達にくれぐれも失礼の無い様に、
館へご案内して差し上げてくれ給え。」

 

クタブ「畏まりました、御主人様。」

 

マバス「うむ。
僕はまだ別にもお客人達を
お出迎えしなければならない。
ハーミとミルユュ、それではまた後でね。」

 

・・・そうして。マバスを門に残し、
私たちは20代くらいの若い管理人・クタブの
運転する馬車に揺られて館へと
入って行くのでした。

♠続く♠


・更新履歴:2017/10/04

 

[或る用の疎]<8>第2章『由』(1)

パーティーは必ず変な時間に始まる。

それは何時からなのですか?と尋ねられても

答えられるものではない。

みんなで何を楽しむパーティーなのですか?と尋ねられても

答えられるものではない。

その答えを誰かが知る由もないまま時も会話も流れて

パーティーは必ず変な時間に始まる。

 

未知予(みちよ)はタスケの書く詩が大好きだ。その中でも、このパーティーについての詩が1番好きだ、今日は。

実はこのパーティーの詩はもっと長い。タイトルは「対等」という古臭いタッチのもので、未知予はこのタスケの詩を知った機会に対等という言葉も同時に知った。

この詩に初めて出会った日から出掛けの準備中の今までにも、数え切れないほどに幾度と無く「たいとう」と声に出して言ってみていた。だけど、今もまた言ってみたがまだまだ気恥ずかしさがある。むしろこれまでに一度も、この「たいとう」という言葉と何か別の言葉や映像や音楽や絵画とかが未知予の中で繋がった試しも無く、全くもって対等もたいとうも意味が分からない未知子で、そんな自分自身を未熟で恥ずかしく感じているところもあるのかもしれない。

それで、アニマリアの振付をアレンジしたヘビのダンスをしながら「さすが未知予さん」と鏡の中の未知予に自らで歓声を送る。わざとバカをして、その気恥ずかしさで未熟の恥ずかしさを誤魔化した。

それから、おはようたいとうおはようたいとうおはようたいとう♪と唄を口ずさみながら家を出て学校へ向かう。

 

その頃、間間タスケは、「爺さん」の本棚から一冊だけ本を抜き出して、一頁ずつ内容を確認していた。

タスケは書庫にある本棚の前で、一冊の本を冒頭から15回ひたすらページをめくったところで一旦はその本を閉じて右手に持って机に向かう。そして椅子に腰掛けてから持ってきた本の表紙を表にして、すでに机の上に乗せられている白紙の左脇に置いた。

それから指先に爪着付型のペンをはめて、さっきまでに目を通していた本の冒頭から30ページ分を行ったり来たりしながら乱雑な文字で本の内容を書き写していく。それから小一時間ほどかけて、デジタル仕様の白紙の縮尺を断続的に小さくしていきながら、タスケは本の中身を書き写し続ける。そして白紙が読み取り可能なフォントの小さい文字のギリギリサイズで敷き詰められたところで止め、そこからはじぃ〜と目の焦点が合わない様に視線を変えて空想の波間に頭を沈めて、波の頃合いに合わせてどんぶらこ漂わせる。そして海亀が息継ぎをする姿にも似た微かさで、呼吸の痛みが尽きるまで添削を繰り返す。

詩人・タスケは、自分ではない人間が書いたものに書き足していく形で推敲を繰り返す作業の中で「タスケの詩」を仕上げていくサンプリングスタイルでしか書いていない。これまでもずっとタスケの詩は、こうやって作られてきた。そして、タスケにとっての「爺さん」とは、タスケと血縁関係のある先代の人達ではなく、タスケ自身とは異なる第三者の「過去となった生命」の総称である。

ただ、ペンネームの由来と机の上に今ある本は、血縁のある爺さんである曽祖父から頂いたものだ。

『川』<7>了(戻る)

 (続く)<9>『由』(2)

 


・更新履歴:第2稿<2017/12/15>

・更新履歴:初稿<2017/08/01>

 

[或る用の疎]<7>第1章『川』(了)

新玉ねぎをまずよく洗ってから不均一に薄くスライスし、そのまま器へ乗せたところへ、卵黄と広めに削られた鰹節があつらえてある。

「卵の白身はどうしたの?」なんて我ながらつまらないことを聞いたもんだが、君から「内緒っ」と台所へ向けて体を戻しながら笑顔で言われたのがとてつもなく可愛くて、君が台所からこちらに帰って来て、揃って2人で食卓に着くまでは、その新玉ねぎスライスの皿にだけ箸をつけてなかったんだよ。

 

 

別に今が空腹であるのでもなければ、空腹になったら新玉ねぎスライスを食べようと考えているのでもなく。なのになぜ俺は君とのその出来事を思い出したんだろう。でもその思い出は、とても心地の良い風を俺の裸の体に纏わせてくれる。そして、むしろ今食べるとすれば。あの日のメインデッシュだった、真っ赤なケチャップを全体に纏ったスパゲティナポリタンかな。あ。白身はスパゲティナポリタンに入れてくれてたのを、君はその食事の後で大笑いしながら教えてくれたんだったね。

 

 

この暗闇に、アキラのすぐ近くに、実在として居るのか居ないのかが分かりかねる声の主の存在に向けて考えを向けている時は、やはり決してアキラも、アキラを眺めている私達も平穏でいられているとは思えない。だけど、”君”のことを思い出している内は、アキラは平穏である様だ。

 

「もしかすると声の主は、現代ではありふれてしまって激安になったアナウンサー仕様だけのAIなのかもしれない。はたまた声の質感からすると、自分と同じ位に年を重ねたリアルな人間なのかもしれない。」

 

”君”のお陰で少し元気を取り戻しているアキラは、その思考をそうやってまたこの暗闇に向けるが、”君”と暗闇とがアキラに与えるそれぞれのエネルギーの体感の違いから、自分の観念を無粋な闇で覆い尽くすのは、まさに見ず知らずなまま縁の出来た他者の存在なのだ、とアキラは理解をしだした。それで”君”を求めた。記憶の中にしかいない”君”が、最も都合が良かった。第1章『川』完。

 

 

『川』(6)(戻る)

(続く)『由』(1)


・更新履歴:初稿<2017/07/12>