[或る用の疎]<5>第1章『川』(5)

今度は苛立ちから、次第に脳内を沸々としながら熱が回っていって思考の回路が再起動しだす。それからフリーズしていた感情も蘇って来るのに合わせて、タービン重機のファンの様な目まぐるしい回転速度で、急速に喪失感と焦燥感がアキラの頭の中から脳動脈や感覚神経に沿って突っ走り、四肢の端々に行き着くまでバリバリ掘削していく破壊の術を押し進める。ついには、そのイメージが自分の人間らしさを空洞にし尽くしていまいそうで、堪らずアキラは何度も何度も叫び声を出し続けるが、既にその姿に人間らしさはなく、人型のサイレンそのものにしか見えないのが悲しい。

だが、そんな己の姿を自分でモニタリングする術など無いアキラは、絶望で作られた壁へ疾走してぶつかって行く地下鉄の車輌から、正にまだ見ぬ誰かに助けを求めるために逃げ出したくて身体中の筋肉を振り絞り、何度も何度も力づくで大きな声を出そうとする。

手のひらを痛むほどきつく握りしめながら、お腹の筋肉を締めたり足を広げて踏ん張ったり、顔を上に向けたり真正面にしたり、見えない地べたへ向けたりしている内に食道内の水分もすっかり枯れて、明らかに声響が鈍り掠れていく喉を通して口からひたすらに息を発する。しかし、そうすることはアキラの眼前にある闇に変化の一つももたらさないし、声の主に対して何が届くでもない。消沈の中にアキラの心身はどんどんへたり込んでいくばかりの中、何故か、全力で大声を出し続けたいというこの思い付きだけが生き残り、それがアキラを捉えて離さない。

それでも、あらゆる人間用エネルギーはいづれ、生命を保てるギリギリの残量のところまで目減りしたあたりで消耗を控え、人間はちゃっかり休止する。そもそも、その期間の長短に関わらず何かしらの変化をし、組成を解いては編み込みなどし続けてエネルギーのカスから人間用エネルギーへと蘇る原料物質を、人間はエネルギー源と呼び、そんな特定の物質がエネルギー化する一瞬を刈り取り利用する。だが、今のアキラには人間用エネルギーを刈り取る在り処に意識が届いていない。だから、ただ尽きてしまったのだ。

『川』(4)(戻る)

 (続く)『川』(6)


・第2稿:2018/02/12

・更新履歴:初稿<2017/05/23>