綺麗じゃない花もあるのよ(#11)

〈左島正子からあなたへ〉

揺るぎない”時の行進”は老いばかりを際立たせていくのではなく、その行軍の道程において一定の間隔で宵の月灯りを振り撒いたりもする。
だからこそ、相手への想いには”正子の頭の中で夜に膨張をしていく習性”があった。
この”想いの誇張の突起が拡大していくイメージ”は、ぶくぶくに自分の体が太るみたいだし、どう考えても不健康な状態だし、鏡には映らない内臓脂肪みたいでもあるのが正子には恐怖だったのだ。

その恐怖が「もしお互いへの想いというものがそれぞれの頭の中に存在するのであるならば、それらを頭の中で膨張させっ放しにするのではなく、”感じの良い形でそれらを見る方法”を用いて確認をしていきたい。」と正子に願わせた。

そこで当時の正子が思い付いたのが「2人別々に鉢植を買ってきて、それぞれの想いを各々の植物を育てるのに注いでみる」であって、正子はミントをプランターで育て始めてからの日々で成長変化するミントの様子を楽しめていた。
同時に正子は「相手は何も育て始めてなんかいない」と実は諦めてもいた。自分が一方的に提案した事である以上は、「もし育てていなくても、それはそれでありがちだ」という理屈であり、約束に対する忌みだ。つまりは言い出しっぺ自身としたところで、ほんの遊びでしかない程度で、この確認作業を進めていたい気持ちがあったとも言える。

だから正子は2人揃って鉢植をするという提案に至った理由なんて相手に伝えることをそもそもしてはいなかった。

 

「正子。俺のアレ、枯れた。」

その内に冬と彼からの唐突な知らせが正子の元へ届いた。
この知らせに苛ついた正子は“許せない冬”をこの時に産んだのだった。

 

その当時の相手との此の確認作業を始めた季節は秋でした。
だからすぐに最初の冬がくるのは自然な訳で、私のミントも彼の植物だって枯れやすい環境にあったのは当然です。
または、彼の植えた品種が冬枯れするヤツだったのかもしれないし、植物を育てるのがやり慣れないことで下手であったが故に手を抜いてしまっていたのかもしれないし。
それらを斟酌してでも私が苛ついたのは、彼が何を育てていたのかとか、どこまで育っていたのかとか、どうして枯れたのかなどの話を聞かせようと全くせず、私に枯れた事だけを伝えてきた点。

彼とは頻繁に会える環境ではなかったのもあってか鉢植同士を見せ合ったことはなかったし、どの品種を植えたのかを教え合ったこともなかった。
だが他の話だったらいつも彼からあったから、彼はそのまま鉢植については素知らぬ振りを続けるでも、育てている振りの嘘を時々は話してくれるでも良かったし、もしそれが私にバレたら笑って誤魔化してくれてでも良かった気さえする。
なのに彼が枯れたことをわざわざ此の私に伝えてきたのが本当に私は嫌だった。

 

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