[或る用の疎]<8>第2章『由』(1)

パーティーは必ず変な時間に始まる。

それは何時からなのですか?と尋ねられても

答えられるものではない。

みんなで何を楽しむパーティーなのですか?と尋ねられても

答えられるものではない。

その答えを誰かが知る由もないまま時も会話も流れて

パーティーは必ず変な時間に始まる。

 

未知予(みちよ)はタスケの書く詩が大好きだ。その中でも、このパーティーについての詩が1番好きだ、今日は。

実はこのパーティーの詩はもっと長い。タイトルは「対等」という古臭いタッチのもので、未知予はこのタスケの詩を知った機会に対等という言葉も同時に知った。

この詩に初めて出会った日から出掛けの準備中の今までにも、数え切れないほどに幾度と無く「たいとう」と声に出して言ってみていた。だけど、今もまた言ってみたがまだまだ気恥ずかしさがある。むしろこれまでに一度も、この「たいとう」という言葉と何か別の言葉や映像や音楽や絵画とかが未知予の中で繋がった試しも無く、全くもって対等もたいとうも意味が分からない未知子で、そんな自分自身を未熟で恥ずかしく感じているところもあるのかもしれない。

それで、アニマリアの振付をアレンジしたヘビのダンスをしながら「さすが未知予さん」と鏡の中の未知予に自らで歓声を送る。わざとバカをして、その気恥ずかしさで未熟の恥ずかしさを誤魔化した。

それから、おはようたいとうおはようたいとうおはようたいとう♪と唄を口ずさみながら家を出て学校へ向かう。

 

その頃、間間タスケは、「爺さん」の本棚から一冊だけ本を抜き出して、一頁ずつ内容を確認していた。

タスケは書庫にある本棚の前で、一冊の本を冒頭から15回ひたすらページをめくったところで一旦はその本を閉じて右手に持って机に向かう。そして椅子に腰掛けてから持ってきた本の表紙を表にして、すでに机の上に乗せられている白紙の左脇に置いた。

それから指先に爪着付型のペンをはめて、さっきまでに目を通していた本の冒頭から30ページ分を行ったり来たりしながら乱雑な文字で本の内容を書き写していく。それから小一時間ほどかけて、デジタル仕様の白紙の縮尺を断続的に小さくしていきながら、タスケは本の中身を書き写し続ける。そして白紙が読み取り可能なフォントの小さい文字のギリギリサイズで敷き詰められたところで止め、そこからはじぃ〜と目の焦点が合わない様に視線を変えて空想の波間に頭を沈めて、波の頃合いに合わせてどんぶらこ漂わせる。そして海亀が息継ぎをする姿にも似た微かさで、呼吸の痛みが尽きるまで添削を繰り返す。

詩人・タスケは、自分ではない人間が書いたものに書き足していく形で推敲を繰り返す作業の中で「タスケの詩」を仕上げていくサンプリングスタイルでしか書いていない。これまでもずっとタスケの詩は、こうやって作られてきた。そして、タスケにとっての「爺さん」とは、タスケと血縁関係のある先代の人達ではなく、タスケ自身とは異なる第三者の「過去となった生命」の総称である。

ただ、ペンネームの由来と机の上に今ある本は、血縁のある爺さんである曽祖父から頂いたものだ。

『川』<7>了(戻る)

 (続く)<9>『由』(2)

 


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