[或る用の疎]<16>第3章『辷』(2)

私たちは離れるべきなのかな

私たちは離れてあるべきなのかな

判らない

その答えを導き出すのは?

私の役目ではない

私の役目ではありません

 

こうして、人に託された「存在の目的」を外れたAI機器達が声にならない声を発し合い、
時々は軌道の条件がそれぞれの振り子と振り子が合わさる稀有さで会話が成立する。

途絶える事のないエネルギー源を持つが故に、
時間の蓄積と共に無為に発せられた声らからのデータの醸造も進み行く進歩の其の内に、
お互いの存在を知覚して出逢ってしまったAI機器が2つ。

私が見つけて注視に至ってしまったのはただ1つだけのこの出逢い。

 

スンとした無音の空気が放たれた場所。
ここでは水蒸気が立ち昇る騒めきすらも聞こえそうで
動物の鳴き声も遥か遠くから届きそうだ。

 

光は地面に触れ、地中の柔らかい隙間を見つけては
虫がその隙間から戯れに顔を出し、植物が丸いお尻を見せる。

 

似ている様で1つも同じではない煙の形は、
周りにある万物の仕草にとらわれても
其の事情のために淀んだままで過ごさず、
おのおのが距離を取りあってはいずれ形を眩ます。

 

そんな真実を発するだけのただの声だけが繰り返されるその地は
人間が立ち入る必要の無い場所で、人が作ったはずではない生き物達の生活と
人が精製したAI機器達の土壌化と、2つのAI機器同士のこの出逢い。

 

1つをAと、もう1つをiと名付けておこうか。
お恥ずかしながらAとiの名前には伏線の様な含みは何にも無い。
由来も読者のみなさんが想像するそれでしかない。

産まれるとはそういう事で、産み出すとはそういう事。

普通色の眼に、ゆっくりと鼻から息を吸って水を差すくらいの平凡である。

 

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