[或る用の疎]<11>第2章『由』(4)

黒い実と、白味を帯びたピンクの花弁達と小さな沢山の緑の葉を付けた植物を見つけた未知予は、その愛らしさに覆われた野性味に興味を持ってWEBサーチエンジンへアクセスしてその植物の名前や特徴を調べ上げる。

金銭・証券の授受を基盤とした商業が無い世界では、植物の呼び名の様なことから”世間を啓蒙・啓発する様なニュース”までのあらゆる情報が、一方的にこちらへ向けて発信されるものでは無い。

片や、調べようとすれば世界中の隅々までの情報が取得できる。過去において利権にまみれていた学会や団体はその組織や名称こそ現存すれど、その中での濁りはおさまり浄化され、無数の有志同士の有機的なつながりの中で格段に質と量を高めた成果を発揮して余すことなく世間一般に情報公開をしている。

未知予は「ふーん。」と鼻白んでからまた歩みを進めた。

「よく知ったからって何も変わらないわ。むしろさっきあの花を見つけた時の昂りが濁っちゃったくらい。」

私が本当は今からどこへ行くべきなのかを調べても必ず答えは出るけど、そこに何があるのかもほとんど分かるけど、私がこれからどうなっていくのかも分かるような気がするけど、何を分からないのかも分かるんだろうけど、分かることが必要なのかが分からない。

未知予が今向かっている先はWASI(World artificial sphere institute:世界人工球体研究所)の施設だ。通称・ワシ。

世界中に点在するワシの工場にあるAI機器で正確に作られたサイズ、材質、用途が異なる様々な種類の球体が、これもまた世界中のワシの施設に集められ、人の手によって仕上加工が施されている。

未知予が通うここのワシには、球体を製造するAI機器もある珍しい場所で、その機器の精度管理をする人達も通ってきている。また、製造する球体の種類が増えていくと同時に減ってもいくので、その製造プログラムの新規登録や削除の処理をする人達も居る。そして、「きっとここのワシには私達とは違って勤職階層で暮らしている人達も居るはず」という意識を、思考の深層部の中で薄い膜がたなびく様な感じで受けながら未知予は球体を磨いて時間を過ごす。

作業は晴れの日も雨の日も屋外でする。湿度を嫌う素材の仕上げは晴れの日に、仕上げ作業で生じる摩擦熱や素材塵を球体に残さない様に作業をしなければならない素材の仕上げは雨の日に、といった具合だ。

「あ、”大人になる”ってのは、一体何なんだろう。」

仕上げ作業の手を止めないまま未知予はそう口にしてから、中粒の雨を落としてくる空の晴れ間を見上げて鼻の穴を広げた。

 

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