目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<4>

 

 

● ―回想②ー ●

 

お互いのグラスを合わせることもそこそこに、
憂鬱な表情で話を始めるハーミ
: 20歳。女子大生です。:
とシシーメ
: 24歳。ハーミの友人、、、です。:

 

シシーメ
「今年の夏は一緒に居られない。」

ハーミ:?

シシーメ
「いやきっと、今年だけじゃなくてずっと・・・。」

ハーミ
「何を言っているの?
仕事が忙しいの?!
何か私に黙っている
良くない出来事でもあったの?」

シシーメ
「良くない出来事か。
そうだね。
僕らにとっては全く歓迎すべきでない事
が起きているんだ。
そして、
もうその事を君に黙っている訳にはいかない。」

ハーミ
「何?
ご家族に何かあったの?
それともC夫・・・
もしかして
重い病気が見つかったとかなの?」

シシーメ
「重い病気・・そうだね。
僕は君にとって〝許されない病気〟に
かかってしまっているのかもしれないよ。」

ハーミ
「え?!
それは何?
私達は恋人じゃない!
何でも私にサポート出来ることは
させて欲しいわ。
何があったのか教えてくれれば私だって」

シシーメ
「無理だ。」

 

またハーミの言葉を遮って言うシシーメに
驚きが隠せず語気を強めて詰め寄るハーミ。

 

ハーミ
「無理・・だなんんて。
一人で勝手に諦めないでよ!
無理じゃないわ。
今は突然のことであなたの気持が
動転しているだけ!
きっと治るわ。私、何が出来るかしら。」

シシーメ「・・・」

ハーミ
「さあ、まず話して、シシーメ。
何があったの?」

シシーメ「・・・。」

 

冷静で穏やかな口調に変えて
無理を自覚しながらもほほ笑むことで、
シシーメの意識の中に入ろうとする
ハーミだったが。
はっきりとした反応を示さないシシーメと
どうしても戸惑うしかない自分を
意図的に隠そうとする衝動への
自己嫌悪とに挟まれて、
二人の間にづかづかと分け入る
沈黙の悪魔をただ眺めているしか無い
ハーミ。

 

少しづつ少しづつ、
私たちはお互いの意識の距離を計るように
グラスワインを飲み進め、
二つのグラスがどちらも半分くらいの量になった頃。
C夫がおもむろにグラスを大きく
傾けて残りのワインを飲み干してから
ようやく言葉を発した。

 

シシーメ
「ミルユュ
:20歳。ハーミの親友。女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。:
が気になって仕方がないんだ。
この気持ちのままの僕では
君とは居れない。
僕らの関係を解消して欲しい。」

 

 

● 庭にて(花火)② ●

 

<ドーン>

 

そのけたたましい爆音が鳴り響いたのは、
弦楽トリオの演奏が終り、
楽団の奏家の女性たちを称える盛大な拍手が
会場に鳴り渡った後で、
今日の月夜の様に澄み切った静寂に
会場が包まれた瞬間だった。

 

そしてまた次の瞬間。
夜空に浮かぶ月よりもだいぶん小さな
幾つかの光の球が小さな破裂音と共に宙で開き、
開いた順番にさらさらと溶けるように落ち消えていく。

 

更に!

会場を囲んで連ねられた沢山の花火が
けたたましい音を撒き散らし、
その花火の閃光と破裂音と煙とが
文字通りに出席者達を包み込んだ。

 

そんな中だったが、
ハーミはシシーメとの別れの時の
静けさを思い出していたものだから、
この花火の喧噪で、
目が覚めた心地になって
少しぼおっとして今はいる。

 

ハーミ
(私も酔っぱらい始めているのかな。
もう色んなことでとにかく
目がしゅぱしゅぱするわ・・・・。)

 

周りには、お酒が順調に入り陽気になっていく
ミルユュや男性陣の様に歓声を上げて喜ぶ者。
呆気に取られた目で、ただ落ち着きなく会場中を
キョロキョロと見渡している者。
引火した火薬の出す煙に困り顔で
お道化た笑いをし合っている者。

 

乾杯の時にマバス
:28歳。新進気鋭の若手デザイナーでハーミの大学の先輩なんです。:
が立っていた場所に今はマヨス
:20歳。ツンデレ系の美少年。ずれた言動で、周りから浮いた存在。:
がたっている。
得意げなポーズで。

 

マヨス
「みんな!びっくりしたろ?でも盛り上がっただろ?」

会場:(歓声)

マヨス
「マバスさんがさ、
「今夜は打ち上げ花火はしない」って言うからさ。
代わりに僕が盛り上げてあげたのさ!
へへっ(笑)ざまーみろー(笑)」

マバス
「会場で見かけないと思ったら
、こそこそと花火のイタズラの準備を
していたのだろう。」

クタブ
「そうなんでしょうね。いい子ですね。」

 

華やかなパーティー会場の中でも
地味でボロな服を着替えもせずに
満足げにしているマヨスであった。

 

  •  庭にて(騒月夜)③ ●

 

連なった花火が弾けたのと同じ様に、
各々のテーブルでそれぞれに
楽しんでいた者たちが一気に
打ち解け合い始めた会場。

 

サトイウ
:52歳。建築会社の社長をしています。館のオーナーのマバス君とは懇意にしています。:
「もっと品が良くってうっとりとさせてくれる
ゲストを連れてきたよ。」

 

ハーミ達のテーブルでは、
サトイウがアテンドしてこられた楽団の女性達も加わってから、
なお一層次々とワインのコルクが抜かれ、
誰もがしたたかに酔っぱらい賑やかな時間が続く。

 

ハーミ
(どうしてシシーメは私ではなくミルユュを・・・・
なんでシシーメは私ではなくミルユュが・・。)

 

周りが楽しそうであればあるだけ
孤独が冴えてくる様で、
私はまたシシーメについて考えている。

 

ペペム
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。40歳。:
「ハーミさん。」

ハーミ
「・・・・・。はい?!」

ペペム
「ハーミさん。あなた、寂しいとか悲しいとか、
いやそもそも心ここにあらずみたいな様子が
溢れ出してしまっていて、
まるで館とこの場所が持つ感情と共鳴しているかの様。」

ハーミ
「あ、ごめんなさい。ほんとにすみません、
失礼をしてしまって。」

ミルユュ
「仕方ないんですよ、ペペムさん。
ハーミはつい最近に彼氏と別れたばかりで。
それで落ち込んでいるのよね?!
悪気はないんです。」

ペペム
「それは却って私の方こそごめんなさい。
恋の終わりは誰しもあることだし、
不本意な場合がよっぽど多いもので。
私にだって、そしてまだ5つの私の愛娘にだって
ロマンチックには語れない恋の終わりの
経験はいくつでもあるのよ(笑)」

ボワン
「僕はペペムさんの話せない
恋のお話しをもっと聞きたいなあ!」

ペペム
「あらやだボワンさん、
よしてくださいよ、
そんなこと仰るのわ(笑)」

サトイウ
「(笑)こちらの女性は音楽家だけあってか、
ふとした時の直観が鋭くてらっしゃるのさ。
私なんかも幾度となく驚かされたことがあるよ。
こないだなんかはさあ・・・・・・・」

 

サトイウはペペムとの話を続ける。

 

ハーミ
(確かにシシーメとの失恋で気落ちしている
ってのは図星だけど。
ミルユュは知らない。
あなたが理由でシシーメの気持が私から
離れてしまったってことを。
でもあなたが悪い訳ではないし。
その事をあなたへ伝えて、
実は誰よりも繊細で傷つきやすいあなたが、
あなたと私との関係がどうなってしまうのか、
今の私には分からないし、
もし打ち明けた時に間違いなく崩れてい
く私達の関係を止める気力も術も無い。)

ピモル
「そんなペペムさんは、
この館に何か不穏な気配でも感じているのですか?
先ほどの話しぶりで、この館について
詳しくもありそうでしたが。」

サトイウ
「まったく・・・。
ピモル君はなかなか諦めてくれないねえ。」

ペペム
「(笑)古~い手作りの楽器なんかが
沢山ある部屋もあるのは知っているわ。」

ピモル
「は~ぁ。
そんな部屋まであるんですね!
祈祷やおまじないの様な儀式に使う
奇妙な物なのかなあ。
どんな音ですか?
まさかそれがまるでこの世のものでは
無い様な・・・・。」

ペペム
「(笑)
私達もどうやって鳴らすのが正しいのか
分からないし、もし壊しでもしたら
大変だから使ったことはないんですのよ。」

サトイウ
「残念だったねえピモル君!
そうやって触らず構わずしてそっと
大事にしておくのが正解ってことさ。」

ピモル
「なんてことだ!
それでは僕の好奇心が騒ぎ暴れて止まらない!
あぁぁぁ・・・・サトイウさん!
もっと詳しく教えてください。
この館の秘密を!」

サトイウ
「ん~ほんとに困ったもんだなあ・・・・」

ペペム
(でもやっぱりあの子から感じる何か。
失恋したばかりだけのことかしら?!
それだけじゃないようにやっぱり感じるんだけど。)

 

 

  •  庭にて(酩月夜)④ ●

 

ピモルたちの館の話もそこそこに、
もっとハーミを元気づけようとして、
ハーミと話を続けるミルユュ。

 

ミルユュ
「えー、もしかしてその後に
更に失恋しちゃったのー??
私、聞いてない!!!」

ハーミ
「違うわよ(笑)なんでもないわ。
大きな音が苦手だから、
あんな賑やかな花火の後で大人しくなってしまっただけ!」
(こうやって私は自然と嘘をつく。
ミルユュは頑張り屋さんだし、
無理してる時も沢山あるけど、
きっと私みたいな嘘つきじゃない。
だからシシーメはきっと・・・・・)

ヤイヤ
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。27歳。:
「そうだわ!
それこそほんとに新しい恋を
始めるのがいいわ!

ミルユュ
「あー!
私もボーフレンドいないから2人で競争よ!!」

ヤイヤ
「あら。それなら私もいないのよ(笑)」

サクルン
:女性。マバスの友人達の内の1人。音楽家。30歳。:
「私だって(笑)」

ボワン
「なんてことだ!
僕たち3人もさ!」

ソスタ
:男性。マバスの友人達の内の1人。スポーツマン。29歳。:
「あ、ピモルはこの魔性の館に
恋しちゃってるのかな(笑)」

サトイウ
「そ、それなら私も恋人募集中だよ。」

ペペム
「いけませんわ。
サトイウさんには奥様も
お子様もいらっしゃるのだから。」

サトイウ
「また痛いところを言い当てられてしまいました・・。」

一同:大笑

ハーミ
(周りの話は耳に入っているが、
私は嘘の微笑を続けて何の考えも、
そもそも興味も無くうなづいているだけ。
自分の中では今の話なんてどううでもいいし。
でもだからといってこの場所を立ち去って
しまいたい訳でも無く。
私は存在そのものが心の中まで全てウソみたいだ。)

 

会場の盛り上がりは更に熱さを帯びていく。
夜が、満天の星空が、まばたきを何度しても
視野がゆっくりと狭くなっていく、
ハンガーノックの様な感覚の中に誰しもが浸っている。
そんな中ではどんなにひたすら耳を澄ませようと
しても頭の中はもわもわしたままで、
もはや自分がどんな動きをしているのかを
分かっている者が果たしてここに
一人でもいるのだろうか。

 

マヨス
「だいたい恋人なんていらないね!」

 

急にまた現れたマヨスが
ハーミ達のテーブルの話に加わる。

 

ヤイヤ
「そうね。
恋は恋人が欲しくてするものじゃないわ。」

マヨス
「もしさ。
宙に放り投げたリンゴが、
そのまま空の彼方へ上っていって
しまった時の気分て分かる?」

ソスタ
「恋人と良い関係でい続けることは
決して簡単じゃないけど、
恋人と過ごす時間はなんて
ハッピーなものなんだろうか!」

マヨス
「例えば人間が持てる理想の数の合計を
百個だとして。その内の最も大事に思う1個を
自分で見つけられずにいるとしたら?
のこりの99個はなんて無駄なもんだろうか。」

サクルン
「この手の話は照れくさくて
否定したいだけなのよね?」

マヨス
「小さかった頃に死を思って、
すごくすごく悲しい気持ちになったみたいに。
この世に生まれ落ちて来れなかったとしたら、
を思ってゾッとしたことなんてあったりする?」

ソスタ
「でも人間は一人では生きれないぞぉ!」

マヨス
「サヨナラは、いつも胸の中にだけあるんだってよ。」

ハーミ
(ちぐはぐだ。
私達はどこまでもちぐはぐだわ。
他人の話は聞いていないし。
今の私達には他人に伝えたいことも
本当は完全にゼロで、全く無いのかもしれない。
それは自分にしか見えていなかった出来事に
脳の賢い所を占有されているから。
例えばそれが良い出来事だったならば、
それに脳の中の賢い所を麻痺させられて呆ける。
悪い出来事は忘れ去れる時まで、
ぐるぐるグルグル遠巻きに眺めてみたり、
間近で見つめ回してみたり。
その悪い出来事が消えると信じて、
自分の足が擦り切れて無くなるまで歩き続ける感じ。
でも、足が無くなって歩みが止まってしまった処と
消したい出来事との二点の間の距離は変わらないままで。
ずっと眠り続ける記憶のしこり。)

マバス
「みなさん!
そろそろお開きにしましょう。
この会場は私共で片づけますので、
どうぞそのままにしてお部屋へと戻られてください。
その際、お好きなだけお酒や食事は
お部屋に持って行かれて下さいね。
リビングで朝まで語らわれていても構いません!」

 

その時、
マヨスは物音一つ立てることなく
もうその場からは消えていた。

♠続く♠


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・初回投稿:2017/10/20