『C&B HOOK-TALE』<1>

 

– First order –

“ Smoke & Cat ”

 

第1話

 

本日も、カフェ&バー・フックテイルへ
ようこそおいで下さいました。

私達の店で最も特徴的なメニューは
エスプレッソコーヒーです。

巷ではカフェでもコンビニでもシアトル系の物が多く、
当店の様なイタリア系のエスプレッソを提供する店では、
たまにちょっと格好をつけてエスプレッソ・イタリアーノと
呼んでみたりもするところもあるみたいですよ(笑)

 

あ、そうだ。
実際にエスプレッソマシーンをまじまじと
近くでご覧になられたことはありますか?

そう、きっとその多くがシルバーを基調とした
メタリックの角ばったフォルムで、
「シュコーッ!!!」「プシューッ!!!」と
蒸気を溢れさせて動くレトロな感じのあの機械ですよ。
そのエスプレッソマシーンで圧力をかけて
短時間かつ少ない水量で抽出するのが
イタリア系のエスプレッソです。

すでに身近なコンビニやシアトル系のカフェで出される
エスプレッソは、まずもって水量が多いんです。
なので、イタリア系エスプレッソの最も分かりやすい
大きな個性は格段に濃厚である点で。
ただ、濃厚ではありますがドリップコーヒーよりも
カフェインが少なくて旨味が凝縮されたコーヒーと
されてもいますよ。

 

「どちらからいらっしゃったのですか?
この辺りの方ですか!?」
「Where are you from?
For travel !? Job!?」

 

さてさて。
この店を始めて以来、実は、この近辺や
同市内のお客様はたぶん半分もいらっしゃって
いないのもこの店の面白味の1つです。

 

というのもまずは当店の立地が影響していそうです。
店を出ると目の前は1 〜 2km先のターミナル駅へ続
く国道があって、路面電車も走っていて電停もあります。
また、さらにその向こう側にはホテルもあって、
店の裏手には港があり、離島へと向かうフェリーや
ジェットホイル、そして少し先の最も広い港には
郊外のショッピングモール位のサイズの豪華客船も
日々入れ替わり立ち替わりで停泊し、
外国からの沢山の旅行客をこの街へなだれ込ませては
また吸い込む光景を毎日の様に見せてくれます。

なので、この店には、旅行や出張で来られた方や、
少し離れた別の市の方がいらっしゃってくださるケースが
多いんですよね。なので、お帰りの際のお見送りの時や
ご注文のやりとりの中なんかで、
どちらからお出でなのかを尋ねるのが私たち店の者の
楽しみにもなる訳です。

 

かたや常連の方々は、それぞれどちらかお近くに
お住まいであったり、職場がお近くであられたりする
パターンが多いのですが、そういったお客様は
カウンターの真ん前に位置した通称・カウンターのお席で
のんびりされているのが常で、
私たち店の者や常連さん同士でおしゃべりを楽しんだり
テレビを観たりして、路地裏の木陰の様な、
日常から少し外れた時間を過ごします。

また、初めていらっしゃったお客様は他のテーブル席や
ソファー席を人数や気分に合わせてお選びになられがち
なのですが、その初めの時に通称・カウンターの席に
座られた方は常連さんになりやすい。
これからお話するエピソードに登場する女性のお客様も
、初回から通称・カウンターに座られた方で、
職場がお近くにあるとのことでした。

 

トン

 

私が、新たに購入したペアのロックグラスの入った
箱の梱包を解こうと、通称・カウンターのテーブルの上に
その茶色の包みを乗せた時。

 

プァーンッ

 

開けられたドアから、店の表の路面電車の警笛の音と一緒に
真冬のピーンと張り詰めた外気を纏って1人の女性が入店された。
これが善美(よしみ)さんとの出会いとはじまり。


※エスプレッソ特有の小さなカップ。
オーガニックな角砂糖を落し混ぜる。正に絶品。※


     プロローグ

第2話


・初稿投稿日:2017.10.10