● 客室に戻り ●
ハーミとミルユュは自室に戻る。
「眠さの限界じゃないけど
明日の海遊びも楽しみだし、
今夜の賑わいもこのまま
心地良い酔いの中に留めておきたいから。」
とミルユュが言うのに私は従い、
さっと交互にシャワーを済ませてベットに入った。
ハーミの失恋ネタで始まった恋の話に、
今はミルユュが一人で勝手に
盛り上がってしまっているので、
このままはしゃいだミルユュが
疲れ果てる時まで付き合いたくはない気分の
ハーミにはそれも都合が良かった。
【今回の登場人物】
・ハーミ:20歳。女子大生です。
・ミルユュ:20歳。私の親友。女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。
・シシーメ:24歳。ハーミの友人、、、です。
● 真夜中の館 ●
〈慣れない寝具と晴れない気分とで
寝つきが悪い夜。
ハーミは真夜中の館が怖くもあったが
ノドの渇きも相まってじっとしておられず、
リビングへ向かおうと起き上がるのに
首をもたげて力んだ時、
急に眩暈に似た感覚に襲われた。
仰向けに見上げた天井が歪んで見える。〉
ハーミ
(せっかくのバカンスで来ているのに
体調まで崩してしまうなんて・・・
つくづくだわ・・・。)
〈ハーミがそう思っていると、
今度は天井だけでなく
部屋全体が歪んできて、
洗濯機の渦に飲み込まれていく様な
感覚に包まれる。
さすがに恐怖を覚えたハーミは、
ミルユュにすがろうと横のベットに目を向けた。〉
ハーミ
ミルユュがいない!?
〈不安と心細さと恐れ追い立てられたハーミは、
寝巻のまま裸足で部屋を飛び出し
リビングへ向けて走る。〉
ハーミ
リビングへ行けばまだ誰か起きているかも。
誰かいたら一緒にミルユュを探してもらおう!
〈まだ視界は天井から壁から床までが
ぐにゃぐにゃとしている。〉
ハーミ
ミルユュどこにいるの?
この館・・・やっぱり変よ!!!
〈とにかく急いでリビングへと急ぐハーミ。
1階まで伸びる階段を下りた正面にある窓から、
明らかに月よりも明るい光が
ハーミのいる方へ向けて
差し込んできているのに気づく。
誰かがその窓の向こうにいるんじゃないか
と思い、私は窓に張り付くようにして
光が差してくる外の方を見たが
そこには誰かがいる訳では無かった。
そして、その光を発する月が
目の前の空にあるわけでもなかった。〉
ハーミ
月が照らしている光じゃないんだ・・・。
一体どこからこの光は来ているの?!
〈その光源が月でも誰かが乗っている
車のライトでも無い事しか分からなかった。
そしてなんの謎も疑問も解けず、
ミルユュもまだ見つかってはいないのだが、
その光に包まれていると気分が落ち着いてくるのだった。〉
ハーミ
なんて優しい光なんでしょう。
お日様みたいに温かい光ではないけど、
とても安らぐわ。
〈スポットライトの様な眩しい光ではなく
淡くておぼろげだが美しく眩い
光のシャワーに包まれた私の両目から
一筋ずつの涙がこぼれ落ちた。〉
ハーミ
(きっとミルユュも私も大丈夫だわ。)
〈魔法にかかったみたいなそんな強い気持ちに
私の感情は落ち着き、さっきまでのざわめいた
嫌な心持ちの何もかもが頬からあごをつたった涙と一緒に
館の廊下に吸い込まれていく。〉
〈それからハーミは走るではなくトコトコとリビングへと進んだ。
リビングには誰もおらず、
テーブルから静かに姿勢よくスッと伸びたデカンタの中の液体を
傍らに置かれたコップの一つに注いで一息に飲み干した。〉
ハーミ
美味しい水だわ。
〈それからハーミはそそくさと
寝室へ踵を返すのだった。〉
〈まだ部屋にはミルユュはいない。
さっき包まれた光のぬくもりの心地が
残ったままの私は、薄く目を閉じたまま
右に左に一度ずつベットで寝返りを打ってから
ハーミは仰向けになった。〉
● 明け方の客室 ●
バタン!
ハーミ
ん?!何の音?
〈寝室のどこかから音がする。〉
ゴン!
ハーミ
え?!あっちはトイレだわ!
〈ハーミは跳ねる様に起き上がりトイレへ向かって駆ける。〉
ギ、ギィィィ・・・
〈ハーミがトイレのドアのノブに手を掛けようとすると
一人でにドアが開き、ミルユュが出てきた。〉
ハーミ
エーーーーーーーーーっ?トイレにいたの?!
〈虚ろで眠そうな顔で私を見るミルユュの方は
全くその表情を変えない。〉
ハーミ
ミルユュはずっとトイレに居たの?
私、あなたがベットにいなかったから
心配で探したのよ。でも良かった!
やっぱり気のせいじゃなかった、大丈夫だったわ!
〈街中で会いたいと考えていた友人に
偶然会えちゃった時の様にはしゃいで話しかけるハーミ。
だがミルユュはそのまま無言のままで
トボトボと歩いてベッドに横たわると寝入ってしまった。〉
ハーミ
もう(笑)
〈本当に安心していたハーミも
そそくさとベットに戻り熟睡した。〉
〈いつの頃からか、
天井も壁も床ももう歪んではいなかった。〉
● ―回想― ●
〈ハーミとミルユュとシシーメは3人でのデートを楽しんだりしたこともあって、
何度か一緒の時間を過ごしたことはあった。
でもミルユュは私の友人だし、
シシーメだってミルユュが私の親友であることは分かっている。
シシーメと私で計画して、
彼氏のいないミルユュにシシーメの知り合いの男の子を
それとなく紹介したことも3度あった。
その間にシシーメはミルユュを好きになった・・・・〉
ハーミ
(いつから?なんてこと?信じられない!
シシーメが突如切り出したミルユュへの想いも、
私がシシーメから受け取ってきた笑顔は?!
シシーメに私が向けてきた私の中の私の想いは・・・)
〈シシーメからの告白を受けてから、
ハーミは一言も言葉を発することができないまま
すぐに店を出てそのまま帰路へついた。
その道すがら電車の中や歩いている間に、
嗚咽がこぼれるのを、感情の叫びが口から飛び出すのを、
ハーミはただひたすら必死に堪えるばかりで、
家に入るなり、シャワーヘッドが規則正しく
弾き出す温かいものを顔に当てて〉
ハーミ
このまま朝が来ればいいのに。
〈力なく座り込んでいる私だった。〉
ハーミ
きっかけなんて、私たち人には図りようもなく、
待ち受けようもないもの。
ある時に一瞬でソレは来る。
さっきの無慈悲なC夫の告白の様に、
私がシシーメを好きになった様に、
シシーメに出会ったあの日からの出来事が・・・)
〈シャワーの蛇口をOFFにして
体をタオルで拭き上げ、
最近伸びた持ち前の癖っ毛が目立ち始めたうねりを丁寧にブローした。〉
ハーミ
ワタシという存在がキレイナゼロになりますように。
● リビングでの朝食 ●
ハーミ
トイレから出てくるなんて(笑)
ビックリするわオカシイわで!
ミルユュ
ん~・・・?!
あぁ、BBQで飲みすぎちゃったみたいで・・・
空を飛んでる夢とかを見ていたはずなんだけど。
トイレで頭を打ったショックで目を覚ましたの。
今でも少し頭の中がホワホワしているわ。
ハーミ
大丈夫ぅ?(笑)
起きてから私もトイレに入ったけど
特に変わったとこは無かったから
ケガなんてしてることはなさそうね。
ミルユュ
ごめんね、心配かけちゃって。
アーーーっ、お腹すいたなあ(笑)
ハーミ
うん私も(笑い)早くリビング行こう!!
・・・わいわいがやがや・・・
〈昨夜のBBQパーティーで打ち解けたままの
和やかで明るい皆さんでリビングは賑やかになっているのだが・・・〉
「いやあそれは大げさな(笑)」
「神が空から降りて来られたかのようだったわ」
「私はぐっすり眠り込んでいて何も・・・」
「遅刻魔の宇宙人も招待されていたんじゃないのかい?笑」
「叫び声が私には聞こえた気がしたが」
「野良猫が喧嘩でもしていたのさ」
「酒の空き瓶でも投げつけてやれば喧嘩も早く済んだのさ(笑)」
「それはかわいそう(笑)」
「とにかく不気味だなあ」
〈喧々諤々、昨夜に起きていた
不思議な出来事についての会話で
リビングはもちきりだ。〉
ハーミ
(あれ!?私が見たあの光、他にも見た人がいるのね・・・)
ミルユュ
何か事件でもあったのかしら?
ハーミ
私も昨日は不思議なことがあったわ。
ミルユュを探してリビングへ向かっているときに
街灯や月明りだとは考えられない不思議な光が
外から差して来ていたの。温かくて美しい光だったわ。
ミルユュ
へえ・・・叫び声がしたなんて話もしてるわね・・・
ハーミ
不気味だわあ・・・
ミルユュ
そうね・・・トイレで寝込んでて良かったわ(笑)
ハーミ
ほんとうね(笑)
♠続く♠
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・初回投稿:2018/01/18