目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<3>


● 鍵 ●

???
「誰だっ!
勝手にこの館に立ち入った者はーーーーっ!!!!!!」

 

見たことのない男が
そう叫びながら出てきて、
3人は驚いて悲鳴をあげた。

 

???:(大笑い)

 

クタブ:歳は、20代半ばとでも。マバス様の館の管理人です。それ以外は内緒で(笑):
「マヨス!
リビングで見ないと思ったら、
こんなとこにいらしたのですね。」

 

マヨス:20歳。ツンデレ系の美少年。性格はけっこう変わり者?!:
「そうさ!
みんなをビックリさせたくてね!」

 

そう言ってまた一人で大笑いし続けるマヨス。

 

マヨス
「じゃあ俺は行くね!
部屋の中には何もイタズラしてないから
安心してくつろいで泊まっていってよ!」

 

クタブ「あ、どちらへ?」

 

マヨス
「先回りされるから教えないよ!(笑)」

 

私たちが来た廊下の方へと
走って立ち去るマヨス。

 

あっけに取られ静まり返る
ハーミ達3人と廊下。

 

クタブ
「大変失礼しました。
彼はこの館の建立者の遠縁の方だと
御主人様から聞いております。
この近くに住んでいるらしく、
ちょくちょく遊びにいらっしゃるのです。
御主人様が可愛がっておられて、
特にやかましいことも言わずに
彼を受け入れておられていて。」

 

ハーミ:20歳。女子大生です。:
「そ、そうなんですね。」

 

ミルユュ:20歳。ハーミの友達の女子大生。建築の勉強をしている女子大生よ。:
「私達よりは少し年下なのかしら。」

 

クタブ
「詳しい素性まではよく知らないのですが、
お嬢様方とあまり変わらないかもしれませんね。
今回のようなイベントごとがある時は
必ず手伝ってくれるので私も助かってはいるのですが・・・
なにぶん少し奇想天外なところがあられます。
この後も彼の手荒い歓迎の犠牲者が出そうですね。
後で平謝りして歩く私の身にもなって
欲しいです。困ったものだ・・・。」

 

マヨスが走り去っていった
先を見つめるクタブ。

 

ハーミ
(ずっとポーカーフェイスだったクタブさん
だけど、楽しそうに笑っているわ。
きっとクタブさんもマヨスのことが
好きなのね。)

 

ミルユュ
「わああ。すごく素敵なお部屋!」

 

そそくさと部屋に入っていたミルユュ。

 

ミルユュ
「ハーミも早くお入りなさいよ。
アンティークに囲まれた、とってもおしゃれな
お部屋よ。
さあ!
そんなとこでぼーっとしてないで、
さあ!早く早く!!」

 

クタブ
「ハーミさんもどうぞ。
お入りになられてみてください。
ここに居ては、また彼にどんな
イタズラをされるかわかりません。」

 

ハーミ
「そうですね(笑)
それではお邪魔します。」

 

クタブ
「こちらのお部屋は寝室が1つですが、
その寝室にはクイーンサイズのベッドが
二つございます。
そしてこのリビングルームと
最新式のシャワールームと
エチケットルームがそれぞれ
1つずつ。」

 

クタブに部屋の中を案内してもらう
ハーミとミルユュ。

 

クタブ
「そんなに広い方の部屋ではないのですが、
気に入ってはいただけましたでしょうか?」

 

ミルユュ
「はい!
凄く気に入りました。」

 

ハーミ
「私も!
そんなに広くないだなんて
とんでもないわあ。」

 

ミルユュ
「そうですわ。
私、ここに住みたいくらい♪」

 

ハーミ
「だめだめ!
ミルユュがここに住んだら直ぐに
散らかっちゃって、こんなに素敵な
アンティーク達が台無しで可愛そう。」

 

ミルユュ
「大丈夫よー!
見かねたハーミが、きっと散らかる前に
綺麗に掃除してくれるわ。」

 

ハーミ「んもう。」

 

ミルユュ
「ハーミもこっちの寝室においでよー。
とっても大きなベッドでおしゃれな
お布団が良い香りだわあ。
お姫様になった気分だわあ!」

 

寝室へ駆けて行ったかと思ったら、
もうベッドの上で飛び跳ねているミルユュ。

 

ハーミ
「こらあ!
そんなはしたないことしないのお!
壊しちゃったらどうするのよ。」

 

クタブ
「大丈夫ですよ。
ベッドもアンティークなデザインを
選んでおりますが、新しい頑丈な物なので、
ライオンと象がベッドの上で
大ゲンカでもしなければ壊れません。」

 

ハーミ
「それでも・・・
あんな子供みたいにはしゃいじゃって、
友人として恥ずかしい。」

 

クタブ
「そんなことないですよ~。
お迎えする側の私達としては
お客様に楽しんでいただくのが
何よりもうれしいことですので!」

 

戻ってくるミルユュ。

 

ミルユュ
「あーーーっ!
楽しいっ!
最高に幸せだわあ。」

 

クタブ
「良かったです。
お二人とも心行くまで楽しんで
帰られてくださいね。」

 

ハーミミルユュ
「はい!」

 

クタブ
「それではこの部屋の鍵を
お渡ししておきます。」

 

飾りの付いた古めかしい鍵と、
真新しいだけのありふれた鍵の
二つを渡される。

 

クタブ
「飾りの付いていない方が
スペアキーとなっております。
お二人でどちらか一つずつを
お持ちになられていてください。」

 

ハーミ
「はい。分かりました。
ありがとうございます。」

 

ミルユュ
「私こっちの古いけど
珍しいデザインで可愛い方にする!」

 

飾りの付いた鍵を手にする
ミルユュ。

 

クタブ
「その飾りは大変古く、
もう手に入らない上に
修理を出来る職人ももういない
という貴重な物なのだそうですよ。」

 

ハーミ
「あら、それだと
ミルユュが持っていたら
無くしたり壊したりしちゃわないかが心配だわ。」

 

ミルユュ
「もおう。
いつまで私をだらしないキャラで
いじめる気なの?
ちゃんとお守りみたいに大事に扱いますわ。」

 

ハーミ
「ほんとに?約束よ。」

 

クタブ
「ミルユュさん。
よろしくお願いしますね。」

 

ミルユュ
「はい!
この館を出る時には、
埃一つ付けずにしてお返しいたしますわ。」

 

それから私たちは
荷物を開いてクローゼットに衣服を
仕舞ってから、ちょっと会わなかった間の
近況報告で、なんてことはないが
楽しい話をはじめる。

 

 

● ―回想①― ●

 

外は、遥か高い空に漂う
薄い雲の動きに合わせて
ひっそりと光の濃淡だけを
変えて輝く星達ではなく、
いたるところできらびやかに
光る週末の灯りに囲まれた街。

 

この日、
シシーメ:24歳。ハーミの友人、、、です。:
ハーミを賑やかな
カフェレストランではなく
モダンな内装と照明の店にわざわざ連れ出した。
2人は音楽を避けてテラスの端の席に腰かけ、
聞き馴染みのあるポピュラーなワインを
それぞれで選んでオーダーし、
店内カウンターの向こうの壁一面に
毅然と並んだ酒瓶の列を眺めながら
カクテルが運ばれてくるのを待っている。

 

 

シシーメ
「もうしばらくしたらすぐに夏休みだね。」

 

ハーミ
「そう。シシーメは夏休みいつからなの?」

 

シシーメ
「う、うん。ハーミよりは短いけどもうじきかな。」

 

ハーミ
「そうなんだ。あ、わかったわ!
今夜は私達の素晴らしい夏休みの予定を立てるのに、
いつもよりもグッと静かな店を
選んでくれたのね?嬉しいわ♪
それに、こんな落ち着いた雰囲気の
お店にも連れて行ってくれるようになるなんて、
学生の頃と違ってさすがね♪」

 

少し浮かれた素振りのハーミを
いつもの優しい笑顔で見つめるシシーメだが、
口数がいつもより少ない。

 

ハーミ
「あれっ?!
もしかして緊張してるのかしら?」

 

シシーメ「う、うん。そうだね。」

 

ハーミ
「どうして?」笑

 

緊張しているシシーメが
かわいらしくて思わず
ほほ笑んでしまうハーミ。

 

シシーメ
「う、うん。今日は大事な話があって。」

 

ハーミ
「わかってるわ!
夏のバカンスのことでしょ?
どこで過ごしましょうか?」

 

シシーメ「う、うん。」

 

ハーミ
「海?
高原?
そんなリゾート地だけじゃ普通よね!
テーマパークで思いっきりはしゃぐのも楽しいわ♪」

 

シシーメ「そうじゃないんだ!」

 

突然に声のボリュームを上げて
私の話を制するシシーメが
申し訳なさそうに話を続ける。

 

シシーメ
「・・・ごめん。そうじゃないんだ。
今日したい話は夏休みのことじゃない。」

 

ハーミ
「なんだろう・・。」

 

シシーメがしたい話に見当もつかず
呟くハーミ。
そしてちょうどその時に
グラスワインが運ばれてきた。

 

シシーメ「ありがとうございます。」

 

ほっとしたように
バーテンダーへお礼を告げるシシーメの表情が、
ハーミの胸の真ん中に嫌な予感をぐっと
押し付けてはさっとその手を引き戻した様だった。

 

ハーミ「もしかして。楽しくない話ですか。」

 

嫌な予感と一緒に
シシーメへの心の距離も感じたハーミは
思わず敬語で尋ねていた。

 

 

● 館の庭にて(夕べ)① ●

マバス「かんぱーい!!!」

 

手にしたスパークリングワインの
グラス同士を合わせる音が、
BBQ会場となっている庭の方々で
キラキラと弾んで、否応にもなく
参加者達の気分を高めていく。

 

マバス
「皆様をこの田舎町へお誘いするにあたって、
手前味噌ながら私なりに苦心をして揃えた料理と、
どこまでも続くかのように広がる
美しい自然に包まれたこの会場の空間を
存分に召し上がってください。」

 

幾列にも並んだテーブルの上には、
骨董品の器に丁寧に乗せられた
沢山の美味しそうな料理の数々が
広げられている。
そして煉瓦作りのBBQコンロ、
タキシードを着たバーテンダーが
ワイングラスに布巾をゆっくり
沿わせながら寡黙に待つ
バーカウンターも参加者達の心を躍らせる。

 

ボワン:男性。マバスの友人達の内の1人。ムードメーカー。28歳。:
「美味しそうなものが沢山あるね!」

 

ソスタ:男性。マバスの友人達の内の1人。スポーツマン。29歳。:
「僕らが取ってきてあげるよ。

 

ピモル:男性。マバスの友人達の内の1人。インテリ。30歳。:
「ドリンクは何が良いかな?

 

先ほどリビングで言葉を交わした
マバスの友人男性の方々が
ハーミとミルユュへ声を掛けてきた。

 

ピモル
「今さっき館に着いたばかりの
僕は初めましてだね。
ピモルですよろしく。」

 

ハーミ、ミルユュ
「よろしくお願いします。」

 

ミルユュ
「マバスさんの後輩のミルユュです。」

 

ハーミ
「同じくハーミです。」

 

音楽が流れだす。

 

ハーミ
「綺麗な音・・・」

 

ピモル
「弦楽トリオが
”アイネクライネナハジムトーク”
を演奏してる。」

 

いつの間にか会場の中央に
優雅なドレスを着た3人の女性が
音楽を奏でている。
華やかな音楽にも引き連られて
会話を弾ませる5人は
自然とこの館の不思議に話が及ぶ。

 

ピモル
「君たちの部屋はどんな部屋だった?」

 

ボワン
「ピモル!
彼女達にいきなりそんな聞き方を
したら失礼だろう。
変な趣味を持ってるズレた男だって思われるよ。
もしかして、もう酔っぱらってんのか?」

 

ソスタ
「これでもピモルは僕ら仲間内の中では
インテリで通っててさ。この館の事、
そして君たちにあてがわれた部屋の事
を聞きたがってるだけなんだけどね。」

 

ピモル
「そうだよ・・・ボワン!
酔っぱらって変な事を口走るのは
いつもの通り君の役目さ(笑)
僕はアルコールで憂さを晴らすよりも
知的好奇心を満たしたいタイプだろ?」

 

ソスタ
「だがそれはそれで変わった趣味だ(笑)
ねえ?
君たちもそう思わない?!
サッカーや乗馬なんかのスポーツを
楽しむ方が何百倍も普通で健全さ。」

 

一斉に笑い合う私達5人。

 

ピモル
「ひどい言われ様だな・・・
頼むから静かにしてくれよ(笑)
それで、
君たちの部屋には何か変わった
所は無かったかい?」

 

ミルユュ
「う~ん。
アンティーク調の立派な家具に
ばかり目が行っていたのか、
変な処は思い浮かびませんわ。」

 

ハーミ
「私も同じ・・・
何も無かったはずですわ。
皆さんのお部屋は何か
変だったのですか?」

 

ミルユュが持っている
鍵についた飾りが
ふと頭に浮かんだことは
ちっとも気に留めなかったハーミ。

 

ソスタ「そりゃあもう!」

 

ボワン
「気持ち悪いったら
ありゃしないって話だよ!」

 

ハーミ、ミルユュ
「えっ?」(笑)

 

ハーミ
「どういうことですの?」

 

ピモル
「いやいやレディー達、
気持ちが悪いなんて大きな誤解さ!」

 

ソスタ
「何言ってんだ!
それを見た時の驚きったら・・・
悲鳴を上げそうだったよ(笑)
そして未だに慣れずに身震いしそうさ!」

 

ボワン
「僕らにあてがわれた部屋にはね、
これまでに見たことも想像したことも無い
様な大きく不気味な仮面が
部屋中の壁に幾つも貼り付けてあるんだ!」

 

ソスタ
「僕らはまるでその不気味な
仮面たちに一日中監視されているような気分・・・」

 

ピモル
「あの仮面たちはお守りなんだってよ。」

 

ボワン
「信じられない。
あれはまるで逆に呪いの仮面・・・」

 

ソスタ
「確かに呪いかも!
あんな不気味な仮面たちを
ニコニコ楽しそうに見回しながら
ブツブツ独り言を呟きながら
写真撮ったりしている
ピモルの行動を見ていたら・・・」

 

ボワン、ソスタ
「正に仮面に呪われた男の姿そのものだ!!」

 

ピモル
「もう君たち二人にはお手上げだよ・・・」

 

一斉に笑い合うハーミ達5人。

 

サトイウ :52歳。建築会社の社長をしています。館のオーナーのマバス君とは懇意にしています。:
「随分と盛り上がっている様じゃないかね、
君達。」

 

楽団が
モーツァルトのディベルティメントを
奏でだした頃、
赤ワインの入ったグラスを片手に
サトイウがハーミ達5人の輪に加わった。

 

ミルユュ
「サトイウさんはこの館のことに
ついて詳しくてらっしゃるんですよね・・・?」

 

サトイウ
「うーん、
今となってはそうとも言えるかなあ。
この土地の周りに昔から住んでいる人は
ほとんど居られなくなってしまったし。
そしてマバス君をこの館へ始めに
連れてきたのは私だからねえ。
君達がこうして仲良く楽しんでいるのも
私のお蔭と言って良いのかもしれないね(笑)」

 

館の部屋についてのこれまでの
私たちの話をピモルがサトイウに説明した。

 

サトイウ
「そうか・・・・・・・・・。」

 

静かにまぶたを閉じて
聞いていたサトイウ。

 

サトイウ
「結局、君達までも・・・。
若さとは時代がどれだけ過ぎようとも、
いつまでも罪深きままのものか。
君達が誰もこの館に取りつかれることが
無いのを祈るばかりだねえ。」

 

遠い目で館の方を見つめながら
話すサトイウの消え入りそうなか細い声に、
一気にトーンダウンするハーミ達だった。

 

ボワン
「ハッ、ハハ、ハハハハ・・・ハァ・・・。」

 

場の沈んだ空気を取りつくろう
ように笑い声を上げたボワン。

 

ハーミ
(いつも陽気なボワンさんの笑い声まで
あんなに乾いてしまって・・。どうしよう。)

 

ボワン
「そ、そうですよねサトイウさん!
だけど残念ながら、ピモルなんて
既に手遅れかもしれませんよ・・・
ハハッ・・・」

 

サトイウ
「さっき聞かせてもらった話振りだと
ピモル君は物知りなようだし、
この館の不思議に特別な興味を持って
しまうのも当然だろうが。
忠告しておく!
決して深入りしてはいけないよ。
ピモル君、
くれぐれも。」

 

ミルユュ
「どうして・・・?」

 

ピモル
「どうしてですか?」

 

ソスタ
「・・・何か恐ろしい出来事が
振り掛かってきたりするんですか?」

 

ピモル
「ボワン!
そんな不吉なこと言うなよ!
僕らは何もそんな大それたことを
しようとしている訳でも
した訳でもないじゃないか。」

 

そしてピモルは恐る恐るな
口振りながら、じっとサトイウを
見据えて話を続けた。

 

ピモル
「この館の各部屋には
それぞれ違った装飾が施されていますよね?
僕がこの大きな館の全ての部屋の違いについて
知っている訳ではないですが。
例えばこの国の形ではない
見慣れない文字で書かれた聖書や、
エキセントリックな色合いの衣装や
調度品、絵画、食器、武器などといったものが
どこかしこに溢れている。
そしてそれらの整合性が取れるナニカが
完全に欠落している様に思います、僕は。
どうやら、人里離れたここの広大な敷地と、
その敷地内に存在するこの館の過去が抱える
歴史的意味には、一部の限られた人だけしか
知らない秘密があるのではないですか?」

 

一同、しばらくの沈黙の後。

 

サトイウ
「君たちはまだ私なんかと比べるまでもなく
とても若い。その上に、きっと優秀な方々で
成長欲も強く、行動力も伴っていることだろう。
そして必ずや素晴らしい人生を進んでいく。
さっきまで皆さんが携えていた様な
はち切れんばかりの笑顔を携えてね。」

 

優しそうな笑顔を少し見せたかと思うと、
悲しい表情を見せて続けるサトイウ。

 

サトイウ
「だがその笑顔が、
「知らない」からこそ現れる笑顔だとしたら・・・。
そりゃあこれからもっともっと沢山の経験や
失敗も繰り返していくからこそ、
君らなりの豊かな実りを育むことが出来るし、
その実りを周りの人たちと分け合うことで
更にどんどんと世界も広げて行くことも出来る。
しかし、知ってはいけない現実に・・・・・
それを知ってしまったことによって
我々儚い人間という生き物は、
自分で気づかない内に闇の住人と
なってしまうこともある。」

 

楽団が
ベートーヴェン/弦楽三重奏
のための
セレナーデop8.
を奏でている。

 

サトイウ
「ほら、海岸の方を見てごらん。」

 

私達は一斉に海岸の方へ顔を向ける。
水平線の中へ沈みゆく太陽。
空は夕から夜へ。
迫る夜の闇が深くなっていくまでの時間が
とてつもなくゆっくりと流れていく。

 

サトイウの年相応に落ち窪んだ目元から
語り掛けられる声に遠慮した星が、
まるで輝きだすのを躊躇しているかの様だ。

 

サトイウ
「今沈みきった太陽は、
また朝になれば僕らの元へ戻ってくるよ。
人ではないからね。
ただひたすら何億年も繰り返しながら
私達を見守り励ましくれる。
だが人間は一度闇へ落ちてから
それまでと同じ様に帰って来れるのだろうか。
それを試すことは勇気だろうか?
どこまでも愚かで儚い人間にとって・・・・・・」

 

私は思わず振り切る様に声を出していた。

 

ハーミ
「大丈夫です!きっと大丈夫!」

私達の五感は楽団の音だけを感じているかのような静寂。

 

ハーミ「そう信じたい・・・」

 

♠続く♠


 

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・初回投稿:2017/09/20