目新しい真新しい旧い古い洋館の出来事<8>

港と対象の位置にある湾の入り口には、
大ぶりと小ぶりの船舶が何隻も停泊していて、
幾人もの人間が昼夜に関わらずうごめいている。

なので、この湾の存在は湾の入り口にいる者達と
館の集落の者達以外には気づかれ様のない状態になっている。

 

 

館のてっぺんに備え付けられた大きな鐘が時を知らせると、
海から山から畑から次々に人が出てきては館へと向かう。

 

湾内の海と山の中、
そして館の周辺では何十人もの人達が魚や山菜を取ったり狩りをしたりしている。

ただ、どこにでもありそうな漁村、山村と似ていそうで違うのは、
その人達が皆違う人種で、話している言葉も多様に違う事。
服装こそは誰もが同じような物を着てはいるのだが、
じゃれ合って遊んでいる子供達も顔つきや肌の色がそれぞれだ。

 

また日が沈んでくると、夕飯を取る人々の様子が館の中と庭のあちこちで見受けられる。
殆どの集団が同じ人種で出来ていて、並べられた料理もそれぞれで異なっている。

だが集団ごとで仲が悪い訳ではなさそうで、
各々が作った料理を交換したり、
招待し合って団欒を共にしたりしている人達もいる。

 

 

館主「そろそろこの館の説明をしなければならない時かと思い、
今夜は皆さんと夕食を共にさせていただくことにしました。」

 

館の中の大広間では、
先日着港した亡命者達と館主と通訳とでの会食が開かれている。

 

亡命者「私達はここよりも確か西南の陸地の向こう側の国で暮らしていました。
その国は権力者たちの同士の裏切りや争い、
そして我々国民の貧困が酷い散々な状態が何十年と続いていて、
これから先も果てしない絶望の晴れることが無いと諦めて、
私達は命がけで船を出して国を捨ててきました。」

 

通訳づてに、亡命者達が自分達の話をする。

 

亡命者「ご存知の通り、その船が貧相なものでしたので、
食糧などはほんのわずかだけを積み、
乗船できるギリギリ一杯の人数を乗せて出発したのが一か月くらい前でした。」

館主「それはそれは・・・大変でしたね。」

 

苦渋の表情を浮かべて館主がつぶやく。

 

亡命者「ええ・・・同情をいただきありがとうございます。
命がけの決心で海へと乗り出したはいいものの、
元来の貧しさからの体力不足であった我々に対して
強く照り付ける太陽や嵐の雨風、激しくうねる大波で、
会話を交わす力までもすぐに尽きていました。
そしてただただ流れに任せて漂流するしかありませんでした。」

館主「そこで我が国の巡回偵察船と出くわしたのですね。」

 

亡命者達が一斉に揃って大きくうなずく。

 

館主「ここの周りの海域には皆さん方の様な他国の民達が頻繁に漂流してきます。
その理由はいくつかあるのですが。
まずはこの辺りの海域の潮の流れがこの湾の入り口の海域に向けて流れていること。
そして周辺の国々の多くでは、平和とは程遠い混乱が根強くはびこってしまっていること。
それであなた方の様に漂流者となってここに辿り着く外国の方々が少なからずいらっしゃるのですが、
運の味方がついていない数多くの船はこの辺りに辿り着く前に難破して死を迎えてしまうことになる・・・。」

亡命者「私達も死んでしまって海の藻屑となることは充分にありえた。」

館主「我々としてもより多くの漂流船を助けたく、
いつでも幾隻の船を沖へ出していますが、
その我々の船団で見つけられる漂流船が多いわけではありません。
とても残念なことなのですが。」

亡命者「私達は本当に運が良かった。」

館主「ところでこの館で過ごされた時間はいかがでしたか?」

亡命者「お陰様で、とても暮らしやすくさせてもらっています。
もうあんな酷い国へは戻りたくありません。」

館主「ええ、ええ。そうでしょう。」

亡命者「あの・・・私達にも他の人達と同じ様に仕事を与えてはくれませんか?」

館主「それは構いません。
いや、むしろそのお気持ちはありがたい限りです。」

亡命者「ありがとうございます!
私達に出来ることは何でもします。
祖国にいた時を思えば、あの海上での時間を思えば、
何だってさせてもらいたい。
それが例えどんなに不慣れであったり卑しい仕事であっても、
もう何なりとおっしゃって下さい!
こんな私達ですから・・・・・・もう全く何も・・・・・・・」

 

最後の方は感情が高ぶり過ぎて
涙と嗚咽で声も切れ切れになりながら
亡命者達は館主へ懇願するのだった。

 

館主「大丈夫ですよ。
まず安心して落ち着かれて下さい。
ほら、せっかくの温かい食事が冷めてしまってもいけない!
さあお腹がはち切れるまで食べましょう(笑)」

 

館専属の料理人が丹精を込めて作る
いかにも美味しそうな料理の数々が
大きなテーブルの上を飾る。
それらの料理はこの国の伝統的な手法を基本としながら、
所々に他国文化を組み込んだ味付けになっている。
その一つ一つを館主が説明しつつ、
この国の事、
そしてこの館での暮らし方なんかを亡命者達へ話していく。

 

この館の館主が治めるこの一帯の農地・山々・海は特殊管理区域。

 

館主と館に仕える者達は、今で言うところの地方公務員である。
そして湾の入り口に停泊している幾艘もの船とその乗組員達は云わば海軍で、
それら以外の者達はというと、全てが住んでいた祖国を離れ運良く流れ着いてきた亡命者達である。

 

なので様々な人種の人達がこの館には一緒に生活している。
更にその亡命者達のする仕事で、ほぼ自給自足の生活が成り立っており、
この特殊管理区域で作った物や採れた物と外界の物との交換も海軍の管理の下で行われている。

そのことでこの特殊管理区域の安定と豊かさは保たれている。

 

ではこの特殊管理区域に国からの予算が割かれていないという訳ではない。

特殊区域用の予算のほとんどは、
この特殊管理区域に対する外界からの視線を避けさせる為の情報防衛に使われている。

それと同時に、亡命者達の好奇心と亡命者達の存在自体を外界に出さないためにも・・・・。

 

館主「人の欲望などというものは尽き枯れたりはしないのだな・・・。」

老人「自国を憂い、見限った末に命を賭してまで嫌って抜け出し、
ようやくの思いで辿り着けたこの館の平穏の中に居ても
まだ諦められない何かを大事に隠し持っている。」

館主「またそのことに当の本人は気づかずにな・・・。
もし気づいてしまった時には・・・、
衝動が当人の全てを支配してしまっている。」

老人「その人という生き物が持つ衝動が、
自らの意志で命からがらになるのを分かっていても
捨てるしかなかった祖国の惨状を作った様なものなのですがね・・・・。」

館主「そろそろ今年ぐらいには、
またあの大きな花火を打ち上げなければならない日が来てしまうのだろうか・・・・・」

♠続く♠


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・初回投稿:2018/02/09