●朝●
もう館の方から見た山の向こう側になるこっちでは、
朝日が綺麗に顔を出し周りの全ての風景がはっきりと見える。
私はススーを脇から両手で抱えて、
マヨスとあの男からゆっくりと飛んで離れ、
街のある崖の下の方へと降りていく。
マヨスから離れれば離れる程に、
彼の姿が小さくなっていくばかりではなく、
薄く霞んでいくようにも見える。
これが存在が消えるという事なのだろうか。
ススーとあの男の命の運命の距離が離れれば離れる程に、
その二人の子孫となるはずだったマヨスが消えていく。
きっとマヨスが見えなくなった時に、
この作戦は成功に終わったことがはっきりするのだろう。
それが運命の変わる瞬間。
もうマヨスの姿は全く見えない。
崖に沿って降りて行きながら崖の淵を見上げると、
ケイサツの集団とあの男がこっちを向いているのは見える。
表情までは見えないが、ただ大人しく立ち尽くしているだけで、
これまでの鬼気迫るようなススーの逃亡劇が
まるでまやかしであったかの様にも思える程に静かな朝だった。
ミルユュ「ハーミ!起きて!ハーミ!起きて!」
私が目を開くとミルユュが私の顔を覗き込んでいる。
ミルユュ「やっと起きたわね!
ビーチから気づいたら居なくなってて、みんなで探したのよ。
そしたら先に部屋に戻ってスヤスヤお休みになられてて・・・
呆れてものも言えないわ!
そんなんじゃあ、私にお説教するのもこれからは無理ね(笑)」
ハーミ「ああミルユュ・・・
皆さんにも心配かけてしまってごめんね。
私、いつからここで寝てたのかしら。
ずっと長い夢を見ていたみたいな気分。」
ミルユュ「そんなの知―らない(笑)
もうすぐに帰るんだから、
荷物をちゃんとまとめて準備して!」
ハーミ「はい。」
帰りの車中。
この館に来てから一度も見たことのない青年が運転手をしてくれている。
バタバタと帰り支度をして急いで車に乗り込むなり、
その青年に気付いた私が「初めまして」と挨拶をするとミルユュに大声で笑われた。
ミルユュ「何言ってるの?
この館に来て初めて会った人じゃない(笑)」
いくら記憶を辿ってもこの青年の事は思い出せない私だったが、
寝ぼけた感じが残っていたのと真夏の強い日差しが眩しいのとで、
ぼんやりと車の窓から外を眺めていたところ、
その青年がバックミラー越しに私の手元を見て初めて声を出した。
「あ!嬉しいなあ。その鍵飾り、ちゃんと持っててくれたんですね。」
・初回投稿:2018/02/16