● 雨の夜 ●
一日中雨が降り続けた3日目。
雨の日には館の外の仕事は行われない。
館の外はただ雨が海と大地を打つ音だけが鳴っている。
ただその分、館の中は朝から晩まで居住者達がゲームや音楽、
子供達が持て余した元気を発散するのに走り回る喧噪で満ちている。
様々な国から流れ着いてきた者達が集まって暮らしているここでは、
こういう日には知らない国の者同士が仲良くなるのにちょうど良い。
お互いの国での暮らしの事、伝統や風習、民謡や流行り歌、日常の遊びを教え合って、
皆でたいそう楽しそうにしている。
祖国から命からがら逃げてきて、
幸運に恵まれて助かった上に何不自由無く暮らすこの者達の中に争いや犯罪は生まれない。
野生を失った動物の様なものなのか。
これが幸福という状態なのか。
平和というものなのか。
マヨス「違う!生命はそんなに単純ではない!!」
ハーミ「!」
マヨス「もうすぐ大きな花火が何万発と上がる。気を付けて!」
ハーミ「!」
ハーミは何が何だか分からないまま、マヨスの腕にしがみついていた。
マヨス「そうだな。それが正解だ。
慣れるまでそうやって俺にずっとしがみついてろ!」
ハーミ「う、うん。うん。」
ハーミは、ガクガク震える小さな声で応えて何度もうなずく。
マヨス「ほら来たぞ!
チッ。よりによって俺たちの足元からだ!
仕方ない。
逃げるぞ!離れるな!!」
降りしきる雨の音の隙間を、
宙に浮いた私達に向けて細い音をシューと鳴らした火の玉がすごい速さで近づいて来る。
それをギリギリで避けると今度は上から轟音の後に無数の火の粉が降りかかって来る。
次々と打ち上がる花火の玉をかわしながら雨粒と降りしきる花びらの混じった空を
ピーターパンとウェンディ―みたいに駆ける2人。
マヨス「油断するなよ!
まだまだこんなもんじゃないぞ。」
ハーミ「こわい!」
雨に濡れているからか、花火の火花の熱は熱くはないが、花火の破裂する音と、それに伴う爆風が止めどなく攻めて来るのが恐怖だ。
ハーミ「私達どうしてこんなところにいるの?」
マヨス「君に話したいことがあるって言ったろ。」
ハーミ「ええ。
でもこうしてこんな怖いとこを飛んでるのと、
その話がどう関係あるの?」
マヨス「ちゃんと知ってもらうのには、
百聞は一見にしかず、だろ?」
ハーミ「それはそうだけど。
ここって今じゃなくて昔なんだよね・・・!?」
マヨス「そうだよ。
タイムトリップは初めてかい?」
ハーミ「当り前じゃない!
タイムトリップをそんな普通のことみたいに言ってふざけないで!」
マヨス「笑」
ハーミ「どうして笑っているの?」
マヨス「ハーミって意外に強いとこあるなあ。
そんな正論を言うなんて。
ミルユュとは大違いだ(笑)」
ハーミ「どうしてここでミルユュがここで出てくるのよ?」
マヨス「えー・・・説明するのがめんどくさいよ。」
ハーミ「マヨスがミルユュのことを言い出すからでしょ!
ちゃんと説明して!」
マヨス「ちょ、ちょっと待ってくれよ!
こんな危ない状況でちゃんと説明なんてできないって!」
ハーミ「ダメ!
そんなの言い訳!
許せないわ。
分かるように説明して!」
マヨス「もう・・・。
分かったよ。
昨日、俺がタイムトリップしようとしていた時に、
あの子がたまたま通りかかったんだよ。
しかもすごく酔っぱらってて。
だから、そのまま放っておくのもいけないと思って連れてったんだ。」
ハーミ「それで?」
マヨス「それで、
この花火にビックリしてすぐに気絶しちゃった・・・。」
ハーミ「それで?」
マヨス「すぐに現代に戻って部屋までは連れて行ったさ。
で、まあ、またふらふら彷徨わない様にトイレに詰め込んどいた(笑)
そこから先は君がご存知の通りさ!」
ハーミ「それでトイレ(笑)」
マヨス「納得してくれたかい?」
ハーミ「ええ。
あ!
その時マヨスはミルユュに顔を見られてないの?」
マヨス「そうだね。
あの子はずっとグダッとしてたから目が合うこともなかったよ。
僕だったことは気づいてないよ。」
ハーミ「そうね。確かに気づいてないわよ!
とっても紳士な男性くらいに思ってるわよ(笑)」
マヨス「なんだそれ(笑)」
ハーミ「じゃあ本題に戻りましょうよ。
私に見せたいのはこの花火だったの?」
スッと平静な表情へと変わるマヨス。
マヨス「違うよ。
この花火が打ち上がる理由のとこを知って欲しいんだ。」
ハーミ「理由・・・」
♠続く♠
・初回投稿:2018/02/15