今は誰も居ないコインランドリーでは5つのドラムが回転していて賑やかだ。
白のタオルケットとフラミンゴ柄のシーツと枕カバーをランドリーバッグに詰め込んで帰り支度はすぐに済んだ。
そして最後にしゃがみ込んで生首を眺め回す。
そういえば見事に無臭である。
清潔であることは何時においても重要。
清潔さは安心をもたらす。
閉じた瞼の睫毛に息を吹きかけてみるが、私と生首との距離間が足りないのかピクともしない。
代わりに小さな綿埃が生首の耳辺りから出てきて私の眼球に迫ってくる。
どちらかというと嫌いで煙草を吸わない私の方にばかり煙りが寄ってくるのに似ていて苛ついてしまい、勢いよく両替機のリアカバーを閉じて「お休みなさい」と声を掛け、鍵は忘れ物ボックスへ投げ入れて家へ帰った。
それからというもの、毛先に風を感じる日には生首の残像がふわふわ空中に浮かんで漂い着いてくる。
生首は雨降りでも濡れる事はないし、晴れが続いても褐色に日焼けする事もない。
いつも丸まったまま真っ白く果てるダンゴムシみたいに悲しい。
「どこからが本当の話だと思う?」
「全て本当じゃないかな。」
僕には君と一緒にいる今と今までの記憶をも、この世の最後の嘘みたいだ。
「私にとっては冬が似ていて。生首に似てるところが多いなあって思ったのよ。」
「正子の冬はダンゴムシの死骸?」
「違うわよ」笑う正子。
「ダンゴムシの死骸はオールシーズン。」
「あ、そうだっけ?」
「そうよ。年中で転がってるわよ。」
「まじか。バイバイした後に探してみる!」
「ばかね」笑う正子。
「絶対あるから探してみて!」
「あ。で、冬の話は?」
「あーね。」
「許してたはずなんだっけ⁈」
「そう。私も許していたはずの冬を拒んだ夜があったわ。しん君って、鉢植の植物を育てたことはある?」
「たぶん無いかな。」
「面倒と言えば面倒だけど、他の何かと比べれば面倒な内には入らないくらいの手間で育つから楽しいわよ。」
「へえ。そっか。」
「私もまた育てるから、しん君も育ててよ。」
「ああ。」
「しん君だと思って私は育てるわ。」
「正子だと思って育てるよ。」
「いいじゃん!」
「でもさ、なんで?」
「冬を受け入れたくなったの!」
「もう拒まないんだ?」
「とりあえず向き合うわ。」
「そうか。」