ヨシハチは変声期<11>

近所に住まいのある、
マサト
ヨシオ
エリ
サチ
ミク
と俺、ヨシハチ。
この6人は春の新学期からコマドリ塾に通い出した。

夏休みに入る直前の頃までには、昨年度には特段の仲良しであった訳ではない俺達6人が、コマドリ塾コミュニティー内での独特の解放感の膨らみから、パピルニーで交わされることの無い遣り取りを交わすのすら当たり前になっていく。

マサトは「妹が出来たから。それでお母さんが忙しくなるから、俺には勉強をさせて手ガカカラナイ様にしたかったんだってさ。」と述べる。

ヨシオは「塾に行く!って親に言ったら、お小遣いが1日百五十円になったんだよ。」と喜ぶ。

エリは「スマホ買って貰っちゃった!」と自慢気だ。

サチは「私も!勉強がんばるなら、って条件でスマホを買ってくれた!」とはしゃぐ。

ミクは「ヨシハチは?」と尋ねてきた。

実は俺個人については、もう新年度明け早々には既に新種の萌芽を自分の中に意識出来ていたのだが、「俺は特には何も。」と返し、「ミクは?」と続けた。

「無理せずに頑張りなさい、ってお父さんが言ってくれた。」
とミクは照れる。

ここの清潔な天井、床、壁の塗装、そしてそれらで区切られた空間に置かれた目新しい物々に触発され、俺達は名前を呼ばれる機会と誰かの名前を呼ぶ機会のどちらもが増えていった。

たゆまなく髪を撫でる生気に満ちた風と空気が含む刺激から、自由が形を成した球体を敷き詰めたボールプールで羽ばたく仕草をする俺をいつでも見せたくて、見せたくて。
誰彼を構わず誰にでも見せたくて。

これまでの俺にとって季節は、文字で見て認識するだけで充分に足りる交通標識だと考えていた。

季節を表す文字を目に留めることはあっても直接的に自分と関係のある事象なのだとは思いもしない人間だった。

また、真新しい鳥かごの中ではコマドリ達の囀りも耳心地いい。
聞きたい事と聞きたくない事の境目は無く、俺はコマドリ達の囀りについては何でもスラスラと聞き取っていった。

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【第12話へつづく】