この一連の小騒ぎの傍観者では留まれない俺の心の中に「出来ればその逆剥けにナメクジを這わしてあげたい。」との思いが立った。
カタツムリだと殻を摘んで投げつけられそうだからナメクジだ。
「またそんな気持ちの悪いことしたがるんだから!」
タカシがこの俺の考えを聞いたなら、きっとそんな風に言って、実際にはナメクジを持ち歩いているはずもない俺を制して止めようとしたくて、続けてこう言うのかもしれない。
「カタツムリだってトシキ達は嫌がるよ!」
そこまで想像した俺は、「確かにそうだ。」と感じ、それと同時に悲しい気持ちが溢れる。
もっと前には俺達は皆、塗り絵でカタツムリとも楽しく遊んだはずなのに。
どうして今ではカタツムリですらも汚い者の様に扱っていて、前までの様に可愛がらなくなったのだろうか。
理由があって可愛がれなくなったのだろうか。
いつかナメクジにしつこく悪口でも言われたのだろうか。
俺達は爪や髪や身長が少しずつ伸びていく変化くらいしか無いと思っていたのに。
俺だけは囚人らしくパピルニーに来てからもずっと坊主頭だ。
バリカンで刈られた次の日には決まってジョリジョリ頭を触られる。
触るもの達からすると、さわり心地が気持ち良いのらしい。
だが男達はほとんど触りに来ない。
彼等は俺を妬んでいるのだろうか?
刈られた日から2、3ヶ月も経って伸びてくると、「今日は帰ってからボーズに切って来るんでしょ?」とも言われる。
これは女達が言うことであって男達からほとんど言われない。
この度に俺としては切っているのではなく刈っている感覚だから、いつも切るという言葉にピンとこないままで曖昧な声を出す反応を返すしかできない。
そして生憎なことに土曜日の午後にしか俺は刈らないから、彼女達は刈りたての俺の坊主刈りをジョリジョリすることなど出来やしない。
かたや男達が言うのは、「ハゲ」。
そう言ってからかってくる。
彼等は俺を妬んでいるのだろう。
そして、トシキはモテるから、実はマキは周りの同性達に妬まれているのだろう。