ヨシハチは変声期<5>

こうして現実と理想の間で蠢く問題との闘いに集中して取り組みたい最中にあっても、虚像のごとき「謝意という感情」が最も俺を突き動かしたのは、俺が真に罪人であって、このパピルニーがお似合いで、このまま収監されているべきであることを立証するには足りている。

「そうだ。」

涙などというものは、どこかへ辿り着くでも、何かに昇華していくでもなく、この世に確かに「偶然」が存在することを立証する目的の為に活用するべきである。
差し当たって今の俺は、タカシへの止めど無き空虚な罪悪感の圧に息の根を押し込まれている内に、俺は呼吸をして生存を保つためにも泣きに泣いて「ごめん」を言い続ける様に成れている。

「はあ。」

俺は溜息を使って立ち上がり、足元の辺りを見回す。
俺に足りないものはまた見つからなかったが、忘れ物は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「親指にどっちも逆剥けっていうのができてさあ。」

「サカムケ?」

両手の親指をマキの目の前に差し出してトシキが言う。
その様は誇らしそうだけれど、甘えたくてどうしようもない気持ちの滲み出た身振りに俺には見えた。

トシキが突き出した逆剥けの指をマキが両手の人差し指でツンッツンッと触れるとトシキは「痛っい~」と言い、次にケンタが触ろうとすると、「もうやめろよ!」と両手とも胸元に仕舞って怒り出す。

トシキはマキが好きなのだろう。
ケンタが嫌なのではなく。

トシキはマキの方を向き直して「だから今日は教室掃除なんかしたくないなあ。」とも言う。
そのトシキの両手が胸元で組まれているものだから、まるでマキの躰を借りた神にお願いや懺悔をしている信者の姿にトシキはなっている。
そしてその表情はいつの間にか甘えた風情に戻っている。

「だめだよ!」

マキは即座にトシキに怒ることで諭すのだった。

「えー。」

だがマキに怒られるトシキは嬉しそうだ。

やはりトシキはマキが好きなのだろう。

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