ヨシハチは変声期<3>

結局、俺の口から出てきたのは、「ババロア。」の一言。

「給食の?」

「ババロアはゼリーじゃないから、透明じゃくて。」

「プリンに似ているやつだよね?」

「うん。でもプリンとは違うんだよね。」

「じゃあカブトやクワガタは食べないのかな?」

「食べないね。」

俺は不確かで嘘を付く。

「カブト用のゼリーって甘くないもん。」

「マジ?よしはち食べたことあるの?」

「いや、無い。」

「ウソ?よしはちは食べてそう。」

今度は本当を言った。

たかしは笑っていて、気づけば俺も声を出して笑っている。

パピルニーは俺たちの声のキーの様に雨の日でも無闇に明るい。
だから俺達の頭の中は落ち着かない。
そして放課後になると俺はいつだって1人になって日陰や草むらに入り込んでは虫を探し、その日に出会った虫達とパピルニーの中のパピルニーっぽくない居場所を作っては、空腹で頭が一杯になるまでの時間を無心で食んでおかなければならない。

でも、今日はたかしも一緒に居てくれたから、明日が昨日よりは楽しみに思えてきた。

なので今日は、地面に掘った浅い穴にハサミムシを入れてから、その上に5枚くらい軽く落ち葉を被せ、俺はパピルニーを後にするのだ。

さっき、たかしとはトイレに入るフリをして別れ、今の俺はトイレで手洗いだけをしている。

左肩に掛けたトートバッグからガーゼのハンカチを取り出して洗い終わった手を拭き、廊下に出て俺は立ち尽くす。

なぜなら俺の足元には、近代的な製造工場の床の様に清潔じみてはいるものの長年の間に擦れて刻まれた傷や窪み、クツのソールが舐め付けた黒いブレーキ痕、綺麗とはおよそ懸け離れた清掃具が上塗りしていく汚れ。

「ゴキブリよりも劣悪な環境にいる俺達は、よもや何かに例えられる価値すらも無い。」

コロコロ

コロロ

コロロ

コロコロ

コロロ

その姿を見せずに歌うコオロギのおぼろげな心の叫びは、俺がわざわざ目を瞑らなくとも、この不潔で粘着質な床でクツを捉え残したまま、素足で宙に浮かせてくれる。
けど浮遊するこの体の行先に悩んだ時点で俺の空の旅は終わっているのだ。

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