綺麗じゃない花もあるのよ(#18)

〈ふたり〉

ウッウウウウウッーウッウウウウウッーウッウウウウウッーウッウウウウウッー。

さっきの軽パトカーとは違うパトカーが強いサイレンを鳴らしながらここの狭い通りを猛烈に駆けた轟音で我に返り、ずっと黙ったままだった進一を見遣る正子とわっさん。

「まあ進ちゃんも大丈夫だから頑張んなよ!才能はあるよ、勇気の!」

「勇気よりも文才欲しいっす」

「勇気も文才もどっちも欲しがれよ進ちゃん!」

「そうよ。今からでも書きなよ!しん君が書いたの読みたい。」

「まだ読んでないとね?」

「ええ。」

「いやだって小説なんて嫌いだって。」

「嫌いだなんて言ってないわよ。」

「いやだって好きじゃないんだろ?」

「好きとか嫌いとか全然言ってないよ!」

「好きじゃなきゃ読んでも楽しくないだろ」

「じゃあ好きよ!」

「はあ?じゃあって言われても。だったら小説のどこが好きかよ?」

「どこがって。そりゃあ。」

「おふたりさん。好きの理由なんていういかがわしいことなんか考えんなよー笑」

「いかがわしい、とか。」

「いかがわしくても、理由が欲しい」

「もし、な。もし、だよ。」

「ええ。」

「はあ。」

「自分のことを愛してもらえないのは自業自得で。だからこそ何とかして、いつかは愛されそうだよな!

でも。自分じゃない人を愛されちゃったとしたら、もうどうにも立ち直れないぞ!

どう転んでも自分じゃない他人にはやはりなれないからな。」

「おれの小説よりわっさんの話の方が面白かったりして。」

「そういう事じゃないでしょ!」

「だから好きな理由がどうとか言ってないで、お互いをじっと見つめ合うんだよ。大事な者同士ならな。」

顔から先に店へ入って行きながら言うから、わっさんとは見つめ合えなかった。

「俺はこのままの目移り貧乏が落ち着くけどな~」

最後、その甲高い大声は、俺の知るいつものわっさんだった。

「店名は変えないんですか~?」

この俺の問い掛けへの答えは無かった。

 

 

書けない時は書かない方が良いよ。私は小説を書かないから知らないけどね。とりあえず手の指の爪を切ったら?

なんで?

触られたら痛そうだし。何をしても汚れが溜まるわ。

 

 

 

初めに俺がこの旧商店街へ入り込んださっきにはゾンビにしか見えなかった人達が、揚々と気色ばんだ姿で1つ方向へ行っている。
姿は変われど、その足取りのゾロゾロとしているのはゾンビのままだ。

そのゾンビ達も、俺と正子も、向かい集う先は同じで。
辿り着いたのは、破裂してぐちゃくちゃに飛び散った死体がまだ見える交通事故の現場だった。

テキパキと働く警察官と救急隊員と消防隊員。野次馬。
パトカーと消防車とに挟まれて立つ俺と正子。

「もういいよ。正子が言う事は何でもかんでも意味しか分からなくて、俺もう」

「言っちゃうの?その先。」

「言わせんなよ。」

消防車のサイドミラーに映る俺の目はパトカーのサイドミラーに映る正子を見ている。

これが、いつも君が見ている君、だ。

 

「ねえ。もし、ここが事故現場じゃなかったら。私達ってさ」

俺は正子の方を見るのは照れ臭く、消防車のサイドミラーに映る自分に向けて応える。

「ハードだな。」

正子はパトカーのサイドミラーに映る自分を見つめて言葉を続ける。

「結局どうなりたいの?」

「出たよ。どんな答えが正解なんだよ。」

「こんな質問、先に訊いた方が負けな気がしたから先にあなたに訊いただけなのよ。」

「イージーだな。」

「あなたとのことでは勝ち敗けは考えないのよ、私。」

「ハッピーだ。」

「ハッピーね。」

 

 

俺は俺の知らない俺で

見透かされている。

私は私で

あなたはあなたで

お互いの虚像と話をしている。

斜め前にある鏡の中で動く顔を
今は見つめ合っていよう。

花は咲かなくても
もう探さなくても
沈黙の中で
俺達の血が騒ぐ。

 

【了】